映画へGO!「さらば、わが愛/覇王別姫」 ★★★★☆
(※多少のネタバレあります)
1993年のカンヌ国際映画祭でパルム・ドールを受賞した名作なのですが、公開30周年、そして主演のレスリー・チャン没後20年として、4Kリマスターで再上映されました。素晴らしい!
個人的な話を言ってしまうと、私の亡くなった母はかなりの映画ファンだったのですが、彼女が好きな映画トップ3のひとつに入れていた作品だったので、今までテレビでしか観てなかったということもあり、改めて大スクリーンで鑑賞してみようと思い立ったのでした。
京劇のトップスターとなった蝶衣と小楼は、幼少の頃に京劇の養成所で出会い、思春期から人生のピークを過ぎるまで、ほぼすべての時を一緒に過ごしてきたのですが、その二人の関係を非常に繊細に描いていく中で、時代背景が近代中国の激動の50年と重なり、二人の人生をいろいろなカタチで揺さぶりながら、悲劇的な結末へと導いていくという、格調高いメロドラマに仕上がっています。
3時間という上映時間だったのですが、政治、文化そして人間心情の、切っても切れない複雑な絡み合いを、中国らしい大きなスケール感と、エモーショナルなディティールで描いていて、そのうねりとゆらぎの連続で、決して長さを感じさせないアッという間の映画体験でした。
兄貴分の小楼を密かに愛している、女形の蝶衣を演じるレスリー・チャンの妖艶な演技は、評判通りに思わず吸い込まれるようで非常にドキドキものなのですが、その幼少期のシーン(別の俳優)の描き方も、印象的なビジュアルとエピソード満載で素晴らしかったです。
コンプライアンスなど一切関係の無い、無茶な厳しさ満載の京劇養成所の閉ざされた環境の中で、少年ならではの、純粋さや残酷さ、そして抑え切れない衝動などによって刻まれた経験の数々が、その先の人生で起こるさまざまな出来事に深くつながっていくのが、映画としての妙味になっています。
密度も情報量も多い映画なので、魅力を一言でまとめるのは難しいです。
とはいえ、主人公たちやその他脇役を含め、個性の強い人物を次々と登場させながら、大きく変化する時代背景と、ジェットコースターのような人間模様の感情の変遷を描き切るという映画的な難題に対し、見事な物語の設計と抑揚ある演出で完璧にまとめ上げた監督の構築力は素晴らしいですし、それが今でも名作として語り継がれる所以なのだと実感できました。
個人的評価:★★★★☆
亡き母のおススメ映画をようやくスクリーンで観ることができました。中国映画ならではの、格調とスケールを堪能できます。