チョロい上司
認知症の義母が、今日は朝からあまり食べていない。
このところ、食事量が減っている。
『食べる』という動作がわからなくなったり、すでに『食べた気』になって、途中で止めてしまう感じで、口を閉ざしてしまう。
車イスに座ったままで運動量が少ないため、それほどお腹が空かないのも、致し方のないところはある。
でも、もう少し食べて欲しい。
せめて、栄養機能食品のゼリーが口に入らないものかと、口を開けてもらうタイミングを見計らっていた。
すると義母は、何かしないといけないのだろうけれど、それが何だったのかわからずに混乱したのか、
「あんた、横に突っ立って何してるの!?
やる気がないならサッサと会社辞めてしまいなさい!」
と言った。
何がどう作用して、ここが会社設定になったのか…。
だが咄嗟に、
「いいえ!ちゃんとします!」と答え、義母の横に座った。
お買い物リストを、ボールペン、赤ペン、定規、コンパス、ハサミ、ホッチキスなど、あらゆる文房具を使って仕上げてみた。
そして、全く大したことのない、買い忘れ防止メモを掲げ、
「おかあさん、書類ができました!」
し、しまった、呼びかけ方をしくじった。
入学直後の小学生が先生のことを呼び間違えるアレみたいになってしまったが、義母は意に介さず、
「はい、よろしい。そこに置いといて。」と、へぼい書類には目もくれず、穏やかに返事した。
「一段落ついたし、お茶にしましょうか、美味しいゼリーがあるよ。」
と言うと、おかあさん上司は、
「うん、そうしよっか。」と言った。
意外とチョロかった。