特別な言葉
認知症の義母がデイサービスから帰ってきた。
でも私は、マンションのお友達とまだお話がしたかったので、ロビーで義母を交えながらお友達と続きの話をした。
お友達は介護経験者で、義母にも優しく話しかけてくれている。
義母もニコニコしている。
けれども、話を終えて自宅へ戻ると、義母の表情は曇っていて、私に「アホ」と言った。
やっばりデイサービス帰りだから疲れていたのだ。
ただ、マンションのお友達はお友達たがら、気を遣ってにこやかに応対していたのか。
ということは、私は義母にとって、気の置けない家族なのだ。
義母は、なかなか言葉が出てこなくてわかりにくいけれど、気を遣わないといけない人と、遣わなくて良い人をきちんと理解していた。
そのことに気がついて、私はアホ呼ばわりされたことが妙に嬉しかった。
義母をベッドに寝かせて、「おやすみなさい」と消灯したとき、義母が「あー」と言ったので、私は急いで義母の顔をのぞき込んだ。
すると、義母は「ほー」と続きを言った。
ただゆっくり、「アホ」と言っただけだった。
それでも、その「アホ」には特別な意味があることを知っている私は、やっぱりアホ呼ばわりされて嬉しかった。
おやすみなさい、おかあさん。