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日常のひらめきが生んだ防災革命: 水で硬化する斜面補強材の登場 (元教授、定年退職237日目)

近年、日本各地で豪雨災害が頻発しています。ゲリラ豪雨や線状降水帯といった新しい気象用語が日常的に使われるようになり、それに伴い斜面の土砂崩れも増加しています。従来の応急処置として用いられてきたブルーシートは、破損や強風による飛散が課題でした。そこで登場したのが、水をかけるだけで数日以内に硬化し、 10 年もの耐久性を持つ新しい斜面補強材です。(タイトル写真、下写真:注1)

応急処置として用いられてきたブルーシート(注1)


TBS の日曜朝番組「がっちりマンデー!!」の特集「地面ビジネス:斜面を補強する㊙マット!」で紹介された、山口県宇部市の中村建設(株)による斜面補強用「ドライマット」は画期的な製品です。番組内では、実際の斜面での使用実験の様子が放映されました。会社の裏山に行き、斜面の上から下にドライマットを垂らしながら敷設します(シートは柔らかく、地面の 凹凸 にフィットします)。端にピンで固定し、水をシートに満遍なくかけると、シートの中に含まれるセメントが反応し、わずか3日後には硬化して強固な保護シートになりました。(下写真もどうぞ)

斜面補強用「ドライマット」(注1)
実際の斜面で使用実験の様子(注1)

<追記> ドライマットが硬化する原理は、次のような仕組みです。セメントモルタルにはセメントと微細な細骨材が含まれており、水をかけると水和反応が起こり、セメント粒子が時間とともにポリエステル製の立体網状構造体と結びついて硬化します(下写真)。この革新的な技術は、国土交通省の新技術情報提供システム(NETIS)に登録されています(注2)。

ドライマットの硬化の詳細(注2)


このドライマットは、豪雨災害時の応急処置だけでなく、高速道路や鉄道の法面(のりめん)補強、太陽光パネル接地面の保護と除草、山間部の配電塔への巡視路確保など、幅広い用途で活用され始めています。


番組では、社長がこの製品を開発するに至った興味深いエピソードも紹介されました。

1. 社長が階段から転んで腕を骨折した際、病院でギプスを付けてもらった時のことです。濡れたテープが腕に巻かれ、それが乾くと硬いギプスになった様子を見て、「斜面に敷くシートが固くなればいい」というアイデアを得て、すぐに商品開発を開始しました。

2. 当初は「セメントを挟んだマットが、斜面では傾斜によりセメントが下に流れてしまう」という問題が発生しました。ある時、社長が工具を取り出そうと段ボール箱を開けた際に、段ボールの中央の波型を見て、そこにセメントを入れることを思いつき、問題が解決しました(下写真)。

傾斜によりセメントが流れる問題を解決(注1)


3. ドライマットは三層構造になっています(下写真)。最上層は水を通しやすく、最下層を水を通さない層にして、真ん中のセメント層が水を吸収しやすくしています。機構を考えたこのシステムは、非常によく練られていると思いました。

ドライマットは三層構造になっています(注1)


興味深いのは、このドライマットの三層構造が、最新のオムツにも通じる点です(こちらも三層です)。内側の一層目は水分を通しやすい構造、二層目は超吸水性ポリマーで水分を全て吸収し、三層目は水分を外に漏らさない構造になっています。オムツはさらに細かな設計がなされていて、一層目は赤ちゃんの肌がサラサラになるような素材、二層目の超吸水性ポリマーは赤ちゃんがおしっこをしている時間で(1分程度)固まる速度を持つように設計されています。また、三層目は濡れたことが外からわかるように、水で色が浮き出る仕組み(例えばキャラクターが浮き出る)を作っているのです。研究者たちの努力が伺えます。


この開発は、日常生活の気づきや経験が革新的な製品につながることを示しています。常に考え続け、様々な場面でのひらめきを大切にする姿勢が、画期的な製品を生み出す原動力となったといえます。


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注1:TBS テレビ「がっちりマンデー!!」より
注2:中村建設(製造)、クリアーシステム(販売):ホームページよりhttps://www.nakamura-k.jp/productinfo/product/drymat.html https://drymat-web.com  


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