「畳」の魅力再発見: 正月を迎えるにあたって、日本の心に触れる (元教授、定年退職272日目)
クリスマスの喧騒が過ぎ、正月の準備が始まると、自然と日本の伝統に心が惹かれます。今回は、日本の住文化を象徴する「畳」について綴りたいと思います(下写真)。学生時代を京都で過ごした私は、畳にいろいろな形で親しむ機会がありました。例えば、京都では着物の展示会など、伝統文化の催しが頻繁に開催され、体育会の部活に所属していた私は、その会場設営のアルバイトをよくしていました。最も大変だったのは、畳とその下の台を運ぶ作業でした。とても重かったのですが、同時に畳独特の香りを感じることができたのは良い経験でした。
京都の料亭での体験
特に心に残る思い出として、弟と京都の老舗料亭「下鴨茶寮」を訪れた際のエピソードがあります。待合室で偶然知り合った年配の常連客の方と親しくなり、私たちは幸運にも茶室での貴重な体験をさせていただきました。茶室での作法や、お茶、お菓子の味について全く知識はありませんでしたが、ゆったりと流れる時間と亭主の所作の美しさに見とれ、初めて京都の風情を味わったと感じました。
NHK大阪制作番組「はじまりは古都にあり」より
最近、NHK 大阪制作の「はじまりは古都にあり:京都極上カルチャー図鑑」という番組で「畳」の特集を視聴しました。番組は、畳の歴史と文化の解説から始まりました。畳は京都で発展し、1300 年以上の歴史を持ち、王朝文化とともに広まったそうです。鎌倉時代には貴族の間で使用されるようになり、畳は座の文化を生み出し、当初は簡素な敷物であったものが、次第に社会的地位や権威を示すものへと変化していったとのことです。(下写真もどうぞ)
茶室と畳:所作に宿る日本文化の真髄
畳文化を象徴するものの一つが茶の湯です。畳が敷かれた茶室は非日常の空間で、亭主が客を招き、茶でもてなす場所です。茶室での所作は、畳の縁(へり)や目が重要な基準となります。亭主はまず畳の縁の延長上に膝を揃えて座ります。釜を置く敷板の位置は膝の位置から16 目、左端から7つ目に置きます。また、抹茶を入れる容器の棗(なつめ)と茶筅の間は、指3つ分、畳の目3つ程度離します。これらの配置は、道具同士がぶつからず、亭主が茶を点てやすく、さらに客からすべての道具が美しく見えるように計算されています。(タイトル写真、下写真もどうぞ:注1)
客に茶碗を出す際も、二つの縁から等距離の位置に置きます。美しい所作で手を伸ばし、茶碗を置ける絶妙な場所です。つまり、道具を置く場所、亭主の座る位置、そして客の座る場所も畳の目が基準となっており、すべて理にかなった必然性に基づいているのです。(下写真もどうぞ)
茶の湯では畳の上での所作にも決まりがあり、敷居や畳の縁を踏んではいけません。敷居は柱と繋がり家を支える大切な部分であり、畳の縁も擦り切れや色落ちを防ぐためです。また、すり足で足音を立てずに歩き、静寂を乱さないようにします。背筋を伸ばして歩くと、畳の上で美しく見えると言われています。
子どもの頃、畳は走り回る遊び場の一つで、敷居や畳の縁は格好の踏み通る道でした(下写真)。私のもう一人の弟は大人になってもその癖が抜けず、ある会合の場で畳の縁を踏んでしまい、後で部下から指摘されたと笑っていました。ちなみに、「畳の縁は神聖な場所と俗世間を分ける境界線と考えられており、縁を踏むことは失礼にあたる」とされています。大人ですから、マナーを守りましょう(私も同じです(汗))。
正月を前に、畳という日本の伝統文化に改めて思いを馳せると、先人たちの知恵と美意識に深い感銘を受けます。現代生活の様式が変化しても、畳はこれからも日本文化の重要な一部として受け継がれていくことでしょう。
−−−−
注1:NHK大阪制作「はじまりは古都にあり:京都極上カルチャー図鑑『畳』」より
注2:畳の歴史 (熊本県畳工業組合)より
https://www.tatami-kumamoto.com/knowledge/history
注3:畳の歴史。日本人はいつから畳を使っている?(加藤畳店)よりhttps://www.katou-tatamiten.com/right4-s.html