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抹茶入り緑茶で拓く欧州への扉: 伊藤園の挑戦 @ガイアの夜明け (元教授、定年退職240日目)
子供の頃、列車旅行は私の楽しみでした。車では酔ってしまう体質でしたが、列車は大丈夫でした。停車駅では、肩紐を下げた駅弁屋さんに窓から声をかけて、駅弁を買ってもらいました(「早くしないと、電車が出てしまうのでは」とハラハラしていました)。十字に結ばれた紐をほどくと、色とりどりの料理がキラキラしていました。そして、駅弁と一緒に必ず注文したのが、プラスチック容器に入ったお茶でした(下写真は、奥様が子供の頃に伊東に家族旅行した昭和 40 年頃のものですが、右端にそのお茶が写っていました。奥様は「伊東に行くならハトヤ」という CM の歌を、ずっと歌っていたそうです)。
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<追記> 当時の列車内は、現在とは大きく異なっていました。食べ終わった弁当の包み紙は、紐を丁寧に結び直し、座席の下に置くのが当時のマナーでした。今のようなゴミ箱はなく、誰もが当然のようにそうしていました。常磐線では、夕方になるとボックス席で宴会が開かれる光景も、よく見かけました。
そのプラスチック容器のお茶は、蓋がカップになり、熱々のお茶を少しずつ飲むことができました。少しプラスチックの味がしたのは(厳密には、プラスチックではなく可塑剤ですね)少々気になりましたが、駅弁と一緒だと不思議と美味しく感じられました。
さて、今回はお茶についての話です。伊藤園の「お〜いお茶」がヨーロッパに進出するという話題を、テレビ東京系列の経済ドキュメンタリー番組『ガイアの夜明け』で放映していました。私はアメリカ滞在の時、日系やアジア系のスーパーで伊藤園の黒い缶入りのお茶を見つけては、懐かしさも手伝って大量に購入していました(賞味期限切れのものも混じっていましたが、誰も気にしていませんでした)。(下写真もどうぞ)
<追記> 当時のアメリカのスーパーや大学の売店で売られていた飲料類はほとんどが甘味料入りで、緑茶も例外ではありませんでした。そのため、本来の緑茶の味わいを求めることは難しく、それらはあまり購入する気になりませんでした。
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一方、ヨーロッパでは、甘味料の入っていない緑茶に出会うことはありませんでした。番組によると、伊藤園は「お〜いお茶」をヨーロッパ市場に進出させるために、まずドイツとイタリアで販売戦略を展開しました。しかし、いきなりプラスチック規制による容器の問題や価格設定の課題に直面したとのこと。容器は「紙製でプラスチックのフタが外れないもの」に変更されましたが、ブランド価値を保つために価格は据え置きとなりました(下写真)。
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そして、最大の課題は、やはり味覚の違いでした。デュッセルドルフで行われたマーケティング調査では、番組で見た限り「魚くさい」「草っぽい」など、厳しい評価が続出していたようです。フレッシュさと生臭さは紙一重であり、特に日本人の好きな苦味や渋みは受け入れられなかったようです。その後、イタリアに場所を移しても評価は上がりませんでしたが、そこでマーケティングの責任者から「緑茶は口に残る味が強いので、より日本的でうまみ成分のある抹茶を入れてまろやかにしたらどうか」という貴重な意見が出されました。(下写真もどうぞ)
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担当者は、この意見を日本に持ち帰り、開発メンバーと何度も試行錯誤を重ねた結果、ようやく青臭みのない「抹茶入りの緑茶」を完成させました。そして、再びヨーロッパに渡り試してみると、今度は評判が良くなり、受け入れてもらえる感触を得ました。特に、日本を訪れたことのある女性からは好評で、従来の緑茶も試飲してもらい意見を聞くなど、戦略的なマーケティング活動を行っていました。「抹茶入り」緑茶を入り口にして、従来の緑茶にも興味を持ってもらう戦略のようです。(下写真もどうぞ)
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お茶に慣れ親しんでいる日本人とは違い、海外のすべての人が「お〜いお茶」を美味しいと感じることはないでしょう。しかし、たとえ 1% でもファンになってもらえたら、それが広がるきっかけになるはずです。ヨーロッパでは甘味料入り飲料が主流ですが、健康志向の高まりから無糖飲料の需要も期待できます。市場開拓には時間がかかるかもしれませんが、伊藤園は着実な一歩を踏み出したと言えるのではないでしょうか。
<追記> 私事ですが、大学時代まで紅茶やコーヒーには砂糖やクリームをたっぷり入れていました。しかし、紅茶専門店に行った際、友人から「お茶には何も入れないでしょう。紅茶も何も入れずに飲んでみて」と勧められ、試してみたところ、紅茶本来の味がはっきりと感じられるようになりました。それ以来、砂糖やクリームを入れずに、飲み物本来の味わいを楽しむようになりました。コーヒーも同様で、ブラック派です。
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注1:テレビ東京系列「ガイアの夜明け:お茶・珈琲の新戦略(11/8)」より