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図書館の風景、時を超えて: 金沢の図書館と、忘れられない私の図書館体験 (元教授、定年退職286日目)

約半年前、NHK の人気番組「ドキュメント 72 時間」で、歴代ベスト 10 特集が放映されました。懐かしさから、私はすべて視聴し、特に印象的だった回をいくつかをピックアップして、過去の思い出と重ねながら note(6/30〜7/4) に綴りました。例えば、栄養ドリンクを豪快に2本飲み干す女医さんや、私もかつて利用したことのあるうどん自販機などが、記憶と共に蘇りました。実は昨年末にも、昨年のベスト 10 が選出されました。MC たちの予想が外れたりしていましたが、私が気に入っていた回もいくつかランクインしていました。参考までに、ベスト3は以下の通りです。興味のある方は、是非ご覧になってみてください。  

        1位 国道4号線 ドライブインは眠らない
  2位 日本海 フェリーで旅する人生行路
  3位 中国 がん専門病院 路地裏の貸し台所


「ドキュメント72時間」で見る、金沢の図書館で出会った様々な物語

今回取り上げるのは、昨年の第6位に選ばれた「金沢 大きな図書館で」という回です。私は昔から図書館や図書室が大好きでしたが、「72 時間」で描かれるような人間ドラマが、果たして図書館にあるのかと思っていました。番組の舞台になったのは、石川県金沢市にある県立図書館で、110 万冊の蔵書を持ち、2年前に建て替えられた最新鋭の図書館です。この図書館の最大の特徴は、円形に配置され、利用者が閲覧しやすいように工夫された、洗練されたデザインと機能性を兼ね備えた書架です。さらに、館内には 500 席もの椅子やソファーがあり、自由に利用できるとのこと。おしゃべりが許可されていたり、遅くまで利用でき食事も可能なスペースもあり、図書館での時間をより有意義に過ごせるような配慮が随所に見られました。もし近所にこのような図書館があれば、定年後の私は毎日でも通いたくなるだろうと感じました。(タイトル写真、下写真もどうぞ:注1)

金沢の県立図書館の様子1(注1)
金沢の県立図書館の様子2(注1)


番組では、仕事の合間の休憩や勉強、趣味のために図書館を訪れる人々の姿が描かれていました。週に一度、料理の専門書を熱心に読み込むベテランの料理人、イラストレーターを目指す発達障害を持つ学生、ボランティア活動のために知識を深める人、子どもの勉強に寄り添う親など、実に多様な背景を持つ人々が、それぞれの目的で図書館に集まっていました。また、昨年の震災の影響で避難生活を送っている人が、静かに今後のことを考えている様子も映し出されており、図書館が単に本を読む場所としてだけでなく、避難所としての役割を果たしたり、人々の心の拠り所となっていることに、深い感銘を受けました。(下写真もどうぞ)

図書館を訪れる人々の姿(左上は料理専門書を読むベテランの料理人さん)(注1)
子どもの勉強に寄り添う親や、今後のことを考えている避難中の方(注1)


私と図書館(1) 〜高校時代から大学教養課程まで〜

私の最初の図書館(室)の記憶は、高校時代に遡ります。同じ高校の卒業生である小説家、恩田陸さんが『図書室の海』という短編を執筆されています。『夜のピクニック』と同様に母校を舞台にした作品で、この作品では図書室が舞台となっていました。私は高校時代、図書室に頻繁に通っていたわけではありませんが、それでもこの小説には懐かしい情景が数多く描かれており、感慨深いものでした。私が頻繁に足を運んでいたのは、茨城県立図書館でした。しかし、その目的は本を借りることではなく、友人たちと受験勉強をするためでした。重厚な机が(だったと記憶しています)、私たちにやる気を起こさせてくれました。時には大人数で押しかけていたため、周りの方々には迷惑だったかもしれませんが、今となっては楽しい思い出です。

大学に入学し、教養課程の時期にも時折図書館を利用しましたが、その最大の目的は、クラブ活動後の「涼み」でした。特に京都の夏は尋常でない暑さだったので、冷房の効いた図書館はまさにオアシスでした。最初は泥だらけの格好で入り口付近にたむろしていましたが、注意を受けてからは、きちんと館内に入り本を読むようになりました(学部1回生の時、私は下駄を履いていたのですが、「下駄禁止」というルールに少し困りました)。


私と図書館(2) 〜研究者として〜

研究室に配属されるようになると、大学の本部図書館に真剣に通うようになりました。当時は現在のようにインターネットが普及していなかったので、過去の論文を調べるには『Chemical Abstracts』という、毎年 10 冊以上出版される分厚い冊子をめくって調べるしか方法がありませんでした。研究活動においては、他の研究者がまだ行っていないことを確認する必要があり、また、論文を執筆するためには関連する論文を徹底的に調べ上げる必要がありました。当時の私は、まさに必死の思いで文献を探していました。

周囲を見渡すと、私と同じように文献調査を行う学生や教官が大勢おり、その熱気は凄まじいものでした。中には、定年退職後も毎日図書館に通う著名な名誉教授もおられ、近くで作業する時には自然に背筋が伸びました。ロシア語やスペイン語の論文で困っていると、幸運なことに、職員の方が訳を助けてくれる人を探してくれました。そして、何よりも嬉しかったのは、途中からコピー機が使用できるようになったことです。それまでは手書きで書き写していた作業から解放されたのです(研究会は、まだ青刷りの時代でしたが)。


これからの図書館の役割

現代において、図書館の役割は大きく変化しました。研究分野においては、関連する論文の検索はインターネットを通じて容易に行えるようになり、論文も pdf で読むことが多いため、コピーを取ることも大分少なくなりました。このような状況下で、図書館の存在意義をどこに求めるのか、今まさに大きな岐路に立っているように思われます。個人的には、大好きな図書館には、何とか生き残って欲しいと切に願っています。金沢の図書館の取り組みが、そのためのヒントの一つになってくれることを期待します。


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注1:NHK番組「ドキュメント72時間:金沢 大きな図書館で」より


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