元教授、100カメ「光る君へ」編でのプロの仕事に感心する: 定年退職171日目
NHK には、ひと月に1度程度放映される「100カメ」という番組があり、様々な現場を100台のカメラで撮影します。一台のカメラであれば演者が意識しますが、100台もあると、普段見られない素の表情や行動が垣間見えるのです。そのため、ドキュメンタリー番組として非常に見応えがあり、私は大好きです。司会を務めるお笑いコンビのオードリーの軽妙なコメントも、番組を面白くしている要素の一つですね。毎回視聴しているわけではありませんが、その中でも「フジロックフェスティバル」や「ポケモン世界大会」、「ファッション専門学校」など、印象に残る名作が数多くあります。
9月12日に放映された回では、平安中期の貴族社会を描いた大河ドラマ「光る君へ」の舞台裏を100台のカメラで追っていました。実は、今回の大河ドラマは初回しか見ていなかったのですが(すみません)、「100カメ」となるとなぜか気になってしまい、夢中で観てしまいました。私にとってまさに「神回」と言える内容だったので、ぜひ紹介させてください。
今回の100カメの趣旨は、平安の「雅」を生み出すために、舞台裏ではどのような努力が行われているのかを探るものでした。例えば、主人公紫式部役の吉高由里子さんは左利きなのに右手で美しく文字を書く練習風景(下写真)、原作者の大石静さんが演出家へ酸素吸入スプレーを差し入れる気遣い、一人あたり10キロもある十二単の準備、サンダルを踏み出しやすいように揃えるスタッフの姿など、見どころ満載でした。
中でも特に印象的だったのは、二人のスタッフの仕事ぶりです。
一人目は、5年目の新人演出家「ヒトシ」さん。彼は若手の助監督から今回抜擢され、「曲水(ごくすい)の宴」で初めて演出を担当しました(下写真)。曲水の宴とは、曲がりくねった川のほとりで和歌や漢詩を読む宴のことです(タイトル写真、注1)。当初は多くの大先輩演出家たちに囲まれ、新しいアイデアを提案しては却下されてしまいますが、徐々に実力をつけていく姿は初々しく、また、先輩方の愛ある叱咤と、最後には彼に任せる度量の大きさに感銘を受けました。
もう一人は、今回最も注目した技術スタッフ「タシブ」さんです。曲水の宴では、上に酒盃を置いた羽觴(うしょう)と呼ばれるカモ(オシドリ)の模型を川に流し、歌を詠み、その酒を飲みます。タシブさんの役割は、1カ月半前からそのカモの模型を製作することでした。屋内に川を作り、発泡スチロールのカモの模型をテストすると、ひっくり返ったり、バックしたり、回転したりと、予想外の動きをしてしまいます。そこで、リモコン操作でモーターを回す方式を試しましたが、今度は機械的な感じがでて却下。工房に戻り試行錯誤を繰り返していきます(下写真)。自然な動きを実現するためポンプ型モーターに換え、バックができない、ポンプが大きすぎて入らないなどの困難を創意工夫で乗り越え、ようやくイメージ通りの動きを実現させました。
しかし、本番当日になって「モーター無しでも充分良い画がとれる」という理由で、ラジコンを使わない方針に変わってしまいます。さらに、本番用の川で模型が故障するなどのトラブルも発生します。司会の二人も(そして私も)、これはもう使われないだろうと思いました。ところが、別の場面で急遽動くカモが必要となり、見事出番を迎えます。小雨が降り出す場面を演出することになり、スポイトで水を垂らす中、カモがポンプ型モーターでゆっくりと動き出します。そして、演出家から一発で「OK!」の声がかかりました。タシブさん本人も満足した様子でひと息つき、司会者のオードリーも(そして私も)、思わず嬉しくなりました。(下写真もどうぞ)
雅な世界の裏側で、多くのスタッフたちが奔走するシーンでしたが、このような苦労と工夫が隠されているのだと、改めてそのことに気づき感激しました。
これを機に、過去の「100カメ」の印象的なシーンをいろいろと思い出しました。明日からも過去の回を少しご紹介させていただこうと思います。またお楽しみに!
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注1:NHK テレビ「100カメ」より