花束みたいな恋をした/他者の変化と向き合う
時間や環境によって変化していく他者とどう向き合うか。人と長く付き合っていく中で、誰しもが通るこの問題が本作のテーマだと思います。
人間は誰もが家庭環境や職場、学校、人間関係…様々な変化に適用しようとします。変化しない人間などいるはずがない。それが成長か、堕落か。そんなのは各々の評価で、変化という事実だけが確かにある。なにより変化をするからこそ人生は物語になるのです。
他人と長く付き合おうとする時、変化を受け入れる必要があります。もしそれができなければ諦めるしかありません。「前みたいな関係がいい」なんて期待せずに諦める。絹はこれを「またハードルを下げるの?」という言葉にします。
他者の変化を受け入れるか諦めるか。両者は似て非なるものです。
麦と絹は趣味や価値観が写し鏡のように一致し、激しい共感によって惹かれ合います。しかしだからこそ相手の変化に耐えられず、苦しみ、少しずつ諦めていきます。期待するのをやめて、諦めて、諦めて、心を押し殺し、最後には互いに何も感じなくなっていくのです。
彼らに限らず僕たちは多かれ少なかれ、共感によって絆を深める傾向にあります。共感は安心感を生みます。誰だって安らぎを求めるのだから当然です。
けどその先で相手の変化に耐えられなくなる。ここに人間関係の矛盾があるのだと感じました。
ラストに彼らはファミレスで在りし日の自分たちによく似た若い男女を目撃し、決して戻れないかつての姿を叩きつけられ共に涙します。しかし裏を返せばそれは、あの時のトキメキが二人にとって同じ質感の思い出だったということです。別れ際でも二人は最後に想いを共にする。"何も感じなくなった"ことを含めて最後まで両思いだったのです。
あのハグはとても美しくて痛ましいものでした。
はふぅ〜
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