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ストコフスキーのデッカ録音について「ベルリオーズ『幻想交響曲』、ラヴェル『ジャンヌの扇』ファンファーレ、『ダフニスとクロエ』第2組曲、ストラヴィンスキー『火の鳥』組曲、ドビュッシー『牧神』、メシアン『昇天』ほか」

連日、悲しいニュースが入って来て、心が痛みます。本日が本当の仕事始めですが、皆さんご無事かなあ…。さて、また気ままにクラシック音楽オタク話を書こうかと思います。本日は、このあと、ごく普通のブログ(予約投稿)が掲載される予定ですので、クラシック音楽オタク話にご興味のないかたには、どうぞそちらをご覧いただけたら、と思います。

きのうに引き続き、英デッカによるストコフスキーのステレオ録音の秀逸なものを集めた5枚組のCDの、4枚目と5枚目のご紹介をしたいと思います。きのうの2枚目、3枚目の記事は、ストコフスキーの、ある意味でありふれたレパートリーのご紹介であり、私としても、じつはすでに何度もこのnoteで触れたことのある音楽が多かったのでした。本日のこの4枚目と5枚目に収録された音楽は、そもそもストコフスキーが生涯に1度しか録音しなかった作品も多く、きのうよりも、より新鮮な記事が書けるのではないか、という予感があります。長い記事だったらごめんなさいね。

私はストコフスキーにハマったのが高校3年のとき、いまから31年前です。本日は、なぜ私がストコフスキーにハマったのか、そして、それから31年間もハマり続けているのか、も言語化しようとしています。それはひとえに、「評価」というものはクリエイティヴだからです。一般には作曲家こそがクリエイティヴだと思われていて、演奏家(この場合、ストコフスキーは指揮者であって演奏家ですが)というのは、楽譜を読んでその通りに演奏するだけの存在であるかのようです。しかし、ほんとうの「評価」というものはクリエイティヴなものであり、ストコフスキーはクリエイティヴな演奏家なのです。数学で言えば「採点」(評価)が本質的にクリエイティヴであるように、また、聖書でいえば、イエスの言行を記した福音書の著者もクリエイティヴであるようなものです。そういう「見逃されたクリエイティヴさ」に私は惹かれる傾向にあることに気づかされてきたというわけです。ともあれ、この話題はまた機会を設けて別に論じることもあろうかと思います。本日は、気ままに「好きなCD」の話をするだけにとどめたいと思います。

収録されている順からご紹介したいと思います。まず4枚目の最初が、ベルリオーズの「幻想交響曲」です。オケはニュー・フィルハーモニア管弦楽団です。1968年の録音です。じつは、これは、私がストコフスキーにハマるきっかけとなった、私にとって重大なレコーディングなのです!

私の中学、高校時代は、いまのようにインターネットがなく、メールも携帯電話もない時代でした。音楽を聴くとすれば、ラジオでなければレコードかCDでした。(私がはじめて買ったレコードは、シューベルトの歌曲集でした。「魔王」が聴きたかったわけです。)私が意識せずに触れていたストコフスキーの演奏は2種類あり、ひとつがオルフの「カルミナ・ブラーナ」(ヒューストン交響楽団ほか)であり、ひとつがラフマニノフのピアノ協奏曲第2番の作曲者自作自演(電気録音)でした。意識した最初が、高校3年生の文化祭で、ムソルグスキーの「展覧会の絵」をやることになり、いろいろCDを買ったときです。ストコフスキー編曲によるストコフスキー指揮の「展覧会の絵」のCDを聴いてたまげたわけです。(これもデッカのステレオ録音ですね。1965年、ニュー・フィルハーモニア。これも現役でまだ持っているCDです。)それから、ショスタコーヴィチの交響曲第5番が聴きたくなりました。シルヴェストリ指揮ウィーンフィルで聴いたり、ラジオで若杉弘さん指揮の演奏をやっていたりで、興味を持ったのです。迷いましたがストコフスキー盤を買いました。ニューヨーク・スタジアム交響楽団、1958年録音。これは、ちょっとがっかりしました。確かに、いま聴いても、ストコフスキーとしては平凡な出来でしょう。バーンスタインにすればよかったかな、と思ったりもしました。そして、もう文化祭も終わり、大学受験まっさかりのような時期だったかもしれません。私はベルリオーズの幻想交響曲のストコフスキーのCDを買って聴き、完全に打ちのめされました。すごすぎる!これで、私は完全にストコフスキーにハマったわけです。そして、これがその録音であるわけです。デッカのステレオ録音。

それまで、私は、ベルリオーズの幻想交響曲と言いますと、実家にあった2種のカセットテープでしか知らなかったわけです。片方はなんだったか忘れましたが、もう片方はモントゥー指揮で、私はモントゥー指揮のほうが好きでした。(オケはどこだったか忘れました。)しかし、このストコフスキーの演奏は、それまで聴いたどれとも違いました。すべて、「これぞ!」という表現をしている!それはまさに再創造でした。それから、30年くらい聴いていますが、いまだに興奮させられるCDです。言葉で表したら陳腐になってしまいそうなので、言葉で書くのをやめておきますが、とにかく私の理想の「幻想交響曲」なのです。私の音楽鑑賞の方向性を定めた、決定的なCDだったのです。

これは、ストコフスキーの公式には唯一のベルリオーズの幻想交響曲の録音です。若いころに録音していてステレオ再録音した、というわけではないのです。ちょっと聞いた話では、ストコフスキーはあまりこの曲は自分は得意ではないという自覚があったようで、デッカから録音したいという話があったときも、この曲は自分よりもっと得意な指揮者がいるではないか、と言ったらしいです(それこそモントゥーとか、と言ったとか)。それでも、レコード会社に押されて、ついにストコフスキーはこの曲を取り上げることになったそうです。それで、この超名演奏を成し遂げてしまうのですから、ストコフスキーはやはり驚くべきであるというか、レコード会社の人も偉いというべきか…。すごい話です。

この曲は、ストコフスキーは、同じタイミングでプロムスで取り上げています。というか、これもきのうのチャイ5と同様に、レコード会社からリクエストのあった曲を、プロムスで取り上げているのだろうと思います。そのプロムスのライヴも残っています。1968年6月18日、ワーグナーの「リエンツィ」序曲、スクリャービンの「法悦の詩」、そしてこの幻想交響曲です。このときのリエンツィ序曲の録音が残っているのか知りませんが、それ以外はCD化されています。それも好きなCDです。ベルリオーズの幻想交響曲も、このデッカのレコーディングと、どちらがいいであろうと迷うほどの名演奏です(やはりお客さんがいたほうが「燃える」演奏になるようです。甲乙つけがたし)。このほか、幻想交響曲は、1970年のアメリカ交響楽団のライヴ録音が残されました。不得意というわりにアメリカでも取り上げたのですね。(もっともその「不得意発言」が、どれくらい信用できる話か、わかりませんけど…)

ちなみに、私がベルリオーズの幻想交響曲を生で聴いた機会はいつか。東大オケで聴きましたね。ずっとのち、数年前に、またあるアマチュア学生オケで聴きました。その2回だけかもしれません。

さて、次の曲です。ベルリオーズの「妖精の踊り」です。ロンドン交響楽団。これは、このCDに、メシアン「昇天」、ドビュッシー「海」、ラヴェル「ダフニスとクロエ」第2組曲、と、レコード録音がなされた1970年6月18日、20日の演奏会と並行して行われたセッション録音です。デッカもずいぶんレコードを作りましたね。(ファンとしてはありがたい限りですけど。)その日のプログラムは、メシアン「昇天」、アイヴズ「オーケストラル・セット第2番」、ドビュッシー「海」、ラヴェル「ダフニスとクロエ」第2組曲、アンコールにこのベルリオーズの「妖精の踊り」でした。6月18日がロンドンでの演奏会、20日はクロイドン(という町がロンドンの近くにあるみたいですね)での演奏会です。演奏会のライヴ録音もすべて残されました。前半のメシアンとアイヴズは、私もだいぶ前からライヴ録音のCDを持っています。30年くらい前からです。これは、メシアンのときに少しまた触れましょう。ずっとのち、ストコフスキーのデッカ録音の国内盤CDがシリーズで出たとき、このストコフスキーの「マニアック・レコード」(メシアンとアイヴズ)もCD化されました。1970年当時としても、かなりマニアックなレコードだったのではないでしょうか。デッカの言いなりになって、名曲路線で録音してきたストコフスキーが、たまには自分の好きな曲のレコードも作らせた、という構図ではないかと勝手に想像しています。私も結局、そのタイミングでは、そのCDを買い損ねた形にはなっていました。後半の「海」「ダフニス」「妖精の踊り」のライヴ録音を聴いたのはずっとのち、いまから2、3年前ではないかと思います。これも少し後述しましょう。とにかく、この演奏会は、すべてのライヴ録音が残っていたことになりますね。(ロンドンなのかクロイドンなのかがわかりませんけれども。)

この作品を生で聴いた経験はないかもしれませんね。

つぎに、かなり大切なレコーディングについて述べます。ラヴェルの「ジャンヌの扇」のファンファーレが収録されています。オケはオランダ放送フィルで、1970年、オランダでの録音です。きのうご紹介しました、フランクの交響曲と同時に録音されました。レコードとしても同じものに収録されて発売されたようです。繰り返しになってしまいますが、ストコフスキーの晩年の伝説的なオランダ客演でのプログラムが、このラヴェルの「ジャンヌの扇」ファンファーレ、フランクの交響曲、そしてプロコフィエフの「アレクサンドル・ネフスキー」カンタータだったのです。この作品は、2分少々の短い曲であり、しかも、私は、1994年(18歳)から2006年(30歳)までの、長い学生時代のなかで、ストコフスキー狂となってCDを買いまくって聴いていたころには出会っていない曲なのです。その、オランダの、ロッテルダムでの演奏会のライヴ録音がすべて出てCD化されたのが、おそらく2008年くらいではないかと思われ、このデッカのCDにも「初CD化」と書かれています。このCDも購入から10年ちょっとくらいだと思います。つまり、仕事で忙しくなってしまって、学生時代のようにいくらでも音楽鑑賞に時間が割ける状態ではなくなってから聴いた作品なのです。(「ジャンヌの扇」は10人の作曲家による合作のバレエ音楽です。ラヴェルのこのファンファーレ以外、私は「ジャンヌの扇」を知りません。)しかも、ちょっと聴くと、なぞの曲です。ヘンテコな曲に聴こえるのです。最初、これはラヴェルが本気を出していない作品ではないか、と思えたりしました。この作品が、ほんとうにいい曲だ、と思えるようになってきたのは、ここ最近です。非常に味わい深い名曲だと思うようになりました。ここで冒頭の、ストコフスキーは、先見の明のある、「評価」という才能のある、クリエイティヴな演奏家だったのだ、という話につながっていきます。この作品の「よさ」に気が付き、88歳のときにオランダでレコード録音したストコフスキーは偉大かな!この曲、1927年には初演されているので、もう作曲から100年くらいたつにも関わらず、いまだにこの曲のよさは世間で認められていない気がします(この曲に夢中のファンがいたりとか、演奏会でひんぱんに取り上げられるということがまずない)。ストコフスキーは、レコードにすることによって、何回も聴いてもらったら、お客さんにこの曲のよさがわかってもらえるかもしれないと考えたのかもしれませんね。ストコフスキーの録音からも54年がたちました。私はいま、この曲のよさを理解しましたよ!

さて、つぎはもっとずっとおなじみの作品である、同じラヴェルの「ダフニスとクロエ」第2組曲です。先述の演奏会からレコード化された1曲。(その演奏会は、アイヴズだけがアメリカ音楽で、あとの、メシアン、ドビュッシー、ラヴェル、ベルリオーズがフランス音楽なのですよね。まあ、レコード会社の都合で決まったプログラムでしょうし、気にしないですね。)意外にもストコフスキー唯一の公式な録音です。しかし、不得意だったのではありません。若いころから、いくつかのライヴ録音が発掘されております。きのう述べました、ニューフィルハーモニアのプロムスのライヴ録音もありますし、もっと古い録音もあります。つまり、デッカが、「ストコフスキーが若いころから得意にしてきた曲で、なぜかレコーディングがなされてこなかった曲」という扱いで、レコーディングした曲のひとつなのです。極めて名演奏になりました。デッカに感謝するしかありません。合唱入りです。(私はこの作品は、若いころ買った、デュトワ指揮モントリオール交響楽団のCDでなじんでおり、それも合唱がありましたので、むしろ合唱のないヴァージョンになじみがないくらいでした。)ストコフスキーの表現は、さすがラヴェル語法を知り尽くした(なにしろ「ジャンヌの扇」ファンファーレを正当に評価できる人ですから、ストコフスキーって・・・)、つぼを心得たすばらしい演奏です。すごい点をひとつだけ挙げます。最後の最後で、合唱だけ残す絶妙の表現!これを最初に聴いたときは、衝撃でした!ストコフスキーは、ときどきこういう衝撃を与える演奏ができます。先述のベルリオーズの幻想交響曲を聴いたときの高校3年の私もそうでしたし、まだこのシリーズで紹介していない、コンセルトヘボウ管弦楽団のライヴのブラームスの交響曲第2番もそうです。とにかくすごいことを思いつくと言いますか…。私がこれを聴いてたまげたとき、つぎの瞬間にステレオが壊れ、修理に出した記憶があります。再生装置までびっくりしたのではないかという…。先述のライヴ録音では、合唱が残る演出を知らない(当たり前ですが)多くのお客さんが、フライングで拍手してしまっている様子が聴こえますね。

ところで、私はこの曲を生で聴いたことがないのであろうか。いかにも生で聴きそうな曲ではありますが、意外にも生でこの曲を聴いたことがないかもしれません。ちなみに、本日、ご紹介する曲で、私がやったことのある曲は1曲もありません。

さて、5枚目に行きます。2枚目、3枚目、4枚目と、必ず最初に長い交響曲が来ていましたが、この5枚目は、それほど長くない曲が4曲、収録されたCDです。私がとくに好きなCDです。いいですねえ、こういう、それほど長くない曲がたくさんで、作曲家もばらばらなCDって。

オケは、すべてロンドン交響楽団です。

まず、ストラヴィンスキーの「火の鳥」組曲です。これはすばらしい!このCDを購入して、まず感激したのがこの「火の鳥」でした!これは、ストコフスキーの十八番であり、すごくたくさんの録音があります。学生時代からたくさん聴いて来ました。最初に購入して聴いたのは、ベルリンフィルのCDです。私はストラヴィンスキーの「ペトルーシュカ」と「春の祭典」のCDは、中学のころからドラティ指揮のCDを持っており、親しんでいましたが、「火の鳥」はその大学に入ってからの、ストコフスキー指揮ベルリンフィルのCDで聴いたのが最初でした。この演奏が私のなかで刷り込みとなっています。いまだにストコフスキー以外の「火の鳥」を聴くと、違和感を感じるくらい、ストコフスキーの「火の鳥」の刷り込みは私にとって強烈です。以下に、ストコフスキーが、ライヴ録音ではなく、レコード用に録音した記録を書きますね。

1924年 フィラデルフィア管弦楽団
1924年 フィラデルフィア管弦楽団
1927年 フィラデルフィア管弦楽団
1935年 フィラデルフィア管弦楽団
1941年 全米青年交響楽団
1942年 NBC交響楽団
1950年 彼の交響楽団
1957年 ベルリンフィル
1967年 ロンドン交響楽団

なんと、正式な録音だけで、9種類もあるではないですか!生涯に2回、録音したら「大得意」なのに、これはどれだけ得意ですか!?(これでライヴ録音も含めるともっと増えるわけです。)

もっともストコフスキーは「レコーディング用レパートリー」とでも言うべきものがありました。この「火の鳥」組曲は、明らかにストコフスキーがレコーディングに執念を燃やした作品だと言えるわけです。

先述の、1957年のベルリンフィルの録音ですでにステレオ録音だったので、このロンドン交響楽団のは、ステレオ再々録音みたいなものです。しかし、これは再々録音をする価値がありました!すばらしい出来なのです!

若いころの生きのいい演奏もまたよいものです。しかし、ストコフスキーはこの「ラスト『火の鳥』」で、じっくりしたテンポを取り、若いころとは違うアプローチでこの名曲を聴かせてくれます。芸の細かさ!ここぞというところで吠えるホルンもロンドン交響楽団らしくてすばらしく、極めて芸術的に仕上がっています。すごいですねえ・・・。感動します。完全に音楽がストコフスキーのものとなっております。

これはまたストコフスキーのプロムスの演目であったらしく、1967年6月15日の演奏会を見ますと、ムソルグスキーの「はげ山の一夜」、チャイコフスキーの「スラヴ行進曲」、このストラヴィンスキーの「火の鳥」組曲、ワーグナー作品集となっており、ここからまたデッカはたくさんレコードを作りましたね。とくにチャイコフスキーの「スラヴ行進曲」はじつに見事な演奏がなされましたので、これはまた日を改めて記事を書きたいと思います。

さて、私が「火の鳥」組曲を生で聴いた機会は、と言いますと、東大オケで聴いたことがあるほか、ときどき聴いている気はします。私の先生によると、極めて難しい曲だそうです。でも、アマオケがときどきやっている曲ですよね。プロの演奏で生で聴いたことはないかと思います。

つぎの曲です。ドビュッシーの「牧神の午後への前奏曲」です。これがまたストコフスキーのものすごく得意な音楽でありましてね…。ストコフスキーが12歳のときに初演された音楽ですが、だいたいストコフスキーが生きた時代というのは、大作曲家とともに歩む時代だったわけです。ストコフスキーが生まれたとき、ブラームスはまだ第4交響曲を書いておらず、チャイコフスキーは第5交響曲を書いていなかった。ともあれ、ストコフスキーがいかにこの「牧神」を得意としたかは、以下の公式の録音の多さからもうかがえます。

1917年 フィラデルフィア管弦楽団
1921年 フィラデルフィア管弦楽団
1924年 フィラデルフィア管弦楽団
1927年 フィラデルフィア管弦楽団
1940年 フィラデルフィア管弦楽団
1940年 フィラデルフィア管弦楽団
1949年 彼の交響楽団
1957年 彼の交響楽団
1972年 ロンドン交響楽団

これまた、公式の録音だけで、9つもあるではないか!これに、世界中に残ったライヴ録音も含めると、膨大な量となるわけです。

この曲は、フルートが活躍しますので、フルーティストという観点から見ますと、フィラデルフィア管弦楽団の録音のある時期以降のものは、ウィリアム・キンケイド(当時、アメリカ大陸でいちばんフルートがうまいと言われていた人だ、と先生から聞いたことがあります)が吹いています。また、1957年の録音は、ジュリアス・ベイカーと書いてあります(ベイカーはキンケイドの弟子で、やはりアメリカのフルート界の巨匠です)。先述の「火の鳥」のベルリンフィルでの演奏会でも「牧神」は取り上げており、そのときのフルートはオーレル・ニコレであったので、ちょっと惜しいのは、レコード会社は、ニコレのソロで「牧神」も録音してほしかった、ということです。ないものねだりですが。

1957年の時点でステレオ録音だったので、これもデッカによるステレオ再々録音だったことになります。ただし、以下の事情があります。

これは、前にブラームスの交響曲第1番のときにも触れましたが、ストコフスキーが90歳のときの、ロンドン交響楽団デビュー60周年を記念した演奏会のライヴ録音なのです。1912年のときと同じプログラムで演奏されました。すなわち、私の資料では曲順がわかりませんが、ワーグナーの「マイスタージンガー」前奏曲、このドビュッシーの「牧神」、グラズノフのヴァイオリン協奏曲、ブラームスの交響曲第1番、チャイコフスキーのスラヴ行進曲、です。1912年5月22日のときのグラズノフのソリストはエフレム・ジンバリストであり、1972年6月14日、15日のときのソリストはシルヴィア・マルコヴィチです。1912年の録音はもちろんというか残っていませんが、1972年のは残りました。デッカが録音したのは6月15日のほうです。「マイスタージンガー」、「牧神」、グラズノフは、映像も残りました。牧神のDVDも持っています。宝です。それで、デッカは(やむを得ず?まさか)牧神のステレオ再々録音をしたというわけです。先述のチャイコフスキーのスラヴ行進曲は、同じオケで、近接した日程で、また録音することになりました。そのような事情があるわけです。なお、1912年にはなかったであろうものとして、1972年には、ストコフスキーはたくさんのバッハ編曲集のアンコールをやったようです。

それから、ナクソス・ミュージック・ライブラリに深刻な間違いがありますので、ひとこと注意喚起をいたしますね。ナクソスには極めて間違いが多いことで有名だと思いますが、ナクソスで聴けるストコフスキーのドビュッシーの牧神で「ロンドン交響楽団」と書いてあるものは、この録音ではなく、1957年の録音の間違いです。そのCDは、ドビュッシーの「夜想曲」、「イベリア」、「月の光」、「牧神」が収められていて、すべてロンドン交響楽団と書いてありますが、ほんとうにロンドン交響楽団なのは「夜想曲」だけであり、「イベリア」はフランス国立放送局管弦楽団の間違い、「月の光」と「牧神」は「彼の交響楽団」の間違いです。とくに深刻なのは、こうして、ストコフスキー指揮ロンドン交響楽団の「牧神」が別に存在するからです。ご注意ください!

この曲を生で聴いたことはないかも・・・。

つぎの曲に参りますね。ドビュッシーの「海」です。これも、ストコフスキーの公式の録音としては唯一です。デッカの人が、ストコフスキーがじつは得意なのに録音していなかった曲をチョイスして、レコーディングしたのですね。感謝としか言いようがないです。これは、ライヴ録音としては、先述の、この録音と並行して行われた演奏会のライヴ、それから、アメリカ交響楽団のライヴがあります。とてもいい演奏です。

この曲は、生で聴いたことが2回、あると思います。珍しいことに2回ともプロオケであり、1994年のプラッソン指揮のN響と、1999年の大友直人さん指揮の東響です。前者は、記憶は確かですし、プログラムもよく覚えているのですが、現実にプログラムが残っていないのと、そのころまだ日記をつける習慣がなかったことで、記事は書けるのですが、どうしようかなあ、という感じです。後者は、いまここに当時のパンフレットがあり、日記もあり、記憶も鮮明であるため、いつか記事を書きますからね!

それから、この曲は、やったわけではないですけど、降り番の経験があります。大学1年のときの東大オケの定期演奏会で先輩がたがやっていたのです。それは、裏方としてせわしなく働いていたなかでの演奏ですので、客席で落ち着いて聴いたうちには入らないだろうと思います。

ついに、最後の曲となります。メシアンの「昇天」です。これがまたいい曲で、いい演奏で、いい録音なのです!さすが、デッカが最後に持ってくるだけのことはありますね。先述の通り、これはライヴ録音は30年くらい前から持っており、モノラルのニューヨークフィルの1947年から49年にかけての録音のCDも持っていましたが、このデッカのステレオ再録音はすばらしいです!この曲も、ストコフスキー以外の演奏でほぼ聴いたことのない曲ではあるのですが、すばらしいですね。これは、先述の「火の鳥」と並んで、このCDを買い直してよかった、と思わされる「いい買い物」でした。ほんとうに宝です。

なお、この曲についてのちょっとした思い出を書きます。曲そのものは、そのライヴCDを30年くらい前から持っているので、なじんでいました。20歳くらいだったと思いますが、ジブリの映画である「もののけ姫」が公開されました。映画の好きな友人に誘われ、映画館で見たものです。そこに、このメシアンの「昇天」の一部によく似た音楽が出て来たのです。「なんだかメシアンの『昇天』みたいだな」と思いながら映画を見ました。私は、映画はほとんど見ません。しかし、最近、ジブリの好きな若い人に、このメシアンの「昇天」を聴かせて、これと似た音楽が「もののけ姫」に出ないか、聞いてみましたら、やはり出るそうです。「もののけ姫」は久石譲さんの作曲ですね。影響をお受けになったのかもしれませんね。

このデッカのセットは、もう1つあり、それは買い損ねた、ときのう書きましたが、それはおもにドイツもの、すなわちベートーヴェンやブラームスなどを中心に集めたものだったようです。それを買い損ねたのは惜しい話ですが、しかし、個別でストコフスキーのデッカのベートーヴェン等は持っています。そのなかにも宝はいろいろありますので、またいずれ、記事にしたいと思います。

本日の記事は、きのう以上に長かったですね!ごめんなさいね。この5枚組の1枚目につきましては、また日を改めて書こうと思います。最後までお読みくださり、ありがとうございました!

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