北原亞以子さんの本棚にいた新選組
北原亞以子さんが亡くなって、もうずいぶん経つ。「慶次郎縁側日記シリーズ」などで人気を博した時代小説家だ。
亡くなってほどなく、時代小説家の仲間から「北原先生のお宅に資料本を貰いに行かない?」と誘われ、数人で出かけた。北原さんの弟さんが図書館学の教授で、古書店に売るよりも、後進の作家に活用してもらいたいというのだ。
行ってみて驚いた。マンションの一部屋が、床を補強した書庫になっており、可動式の本棚が満杯。書斎もリビングも本棚だらけ。廊下にも本棚があり、「藤岡屋日記」をはじめ、日本史の基本史料がずらりと揃っていた。
書庫の一角には新選組の本がかたまっていた。北原さんがメジャーになる前に、新人物往来社の大出俊幸さんが新選組関係の原稿を執筆依頼していたことは、以前から知っていたが、これが参考図書だったのかと感慨深かった。北原さん自身が書かれた新撰組本も並んでいた。
今は電子書籍を利用する世代が増えた。電子書籍は本の置き場にも困らないし、慣れれば楽なのだと思う。でも床を補強するほどの重みのある本棚は、北原さんの生きた証なのだなと思った。だからこそ弟さんは、安易に古書店に売りたくなかったのだろう。
北原さんは亡くなる直前まで、病院で連載の校正を続けていたという。死ぬまで作品を発表し続けられたのは、幸せな作家人生だったと思う。
本を頂いて帰る際に、玄関を振り返ると、主を失った女性物の靴が数足、きちんと並んでいた。靴は二度と履かれないし、電子書籍は消えてなくなるが、本は誰かの手に渡って読まれ続ける。
文/植松三十里 画/いとうえみ(うえまつえみ)
「新選組友の会ニュース」vol.151 2016年11月10日発行に掲載
「北原亞以子さんの本棚にいた新選組」