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super_acacia155
ショートショート:三日月ファストパス
三日月ファストパスは売り切れていた。
乗ってしまえば宇宙までひとっとび。一瞬の、孤独な旅。あまりの速さに、事故は絶えない。黒い噂の多い民間企業が開発した宇宙船のチケット。
『速さに耐えられず、宇宙船ごとバラバラになる可能性があります…』
そんな内容の同意書にも、判をおしたのに。そもそも、それが本望なのに。
「あのう、一般的なチケットならありますが」
受付の青年がおずおずと言った。悪名高い企業の人間にしては、いやに控えめだ。
「一般的って?」
「およそ一週間かけて、月までの旅を楽しむプランでございます」
「一週間なんて…、明日も、」
仕事なのに、と言いかけて言葉を呑んだ。
今夜旅立ってバラバラになろうとしていた人間が、明日の仕事など。
「いつ出発?」
「早いもので、このあとすぐです」
「それ、ください」
さっさと手続きを済ませ、宇宙船に乗り込んだ。
「良い旅を」
そうだね、これは、旅。
本当にバラバラになるかどうかは、還ってから決めるとするか。
(410字)
※フィクションです。
たらはかに(田原にか)様の企画『毎週ショートショートnote』に参加いたしました。