ショートショート:壁に少々らっきょう
テーブルと床を拭きあげたところで、壁の何かに気付いた。らっきょうだ。壁に少々らっきょうがへばりついている。苦笑いしてゴミ箱に投げ入れた。
「ふざけんじゃないわよ!このクソ野郎!」
おしとやかで清楚なところが好きだったんだけどなぁ。思い出すのは、あの罵声。そして、勢いよく立ち上がった弾みでテーブルから落ちたカレーには目もくれず、バタン!と音をたててドアを閉め、出て行った姿。
君が好きなカレー。辛口で、野菜たっぷり。頑張って作ったのにな。福神漬ではなくらっきょう派だという君のために、わざわざ買ってきたのにな。
『お話があります』
君からのかしこまったメッセージ。心当たりがありすぎて、少しでも挽回できないかと思ったんだけど。
「ほら、君の好きなカレーとらっきょう」
「は?」
「これで機嫌直して…」
「こんなのでごまかさないで!」
「浮気したのは謝るから…」
カレーと少々のらっきょうでは、僕の浮気は誤魔化せないらしい。厳しい世の中だなぁ。
(410字)
※フィクションです。
田原にか(たはらかに)様の『毎週ショートショートnote』に参加しました。
今回は表お題「スベり高等学校」が何にも思いつかなかったため、裏お題「壁に少々らっきょう」です。こちらはお題を見た瞬間、ぶちまけられたカレーライスが脳裏に浮かんだのでそのまま文章にしました。
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