短編小説:シャッター街に、こんにちは!
はい、ということで今週も始まりました。シャッター街に、こんにちは!
今日も“終わってる”シャッター街を紹介していきます!
さて、今日の舞台は○○県△△市の中心部にあるシャッター街です。
まあ、あれですね。そもそも○○県ってどこ?って感じ。名産も観光地も全然思い付かないですね。何があるの?この動画がなきゃまず来ることはないですね。お金もらっても行かないよ。だって何もないし。俺が無知なだけ?いやいや、大学出てますから、こう見えても。
そんなんはどうでも良いわけよ。
この終わってる、失敬、ぱっとしない県のシャッター街を紹介していきますよ!
はい、ここです。
もともとは商店街だったんでしょうね。
うわー、見てください、みなさん。終わってますね!シャッター、シャッター、シャッター。
模範みたいなシャッター街ですよ。
どこもやってないじゃん。怖っ。
時刻は、午後1時。今日は日曜日だから、本来ならある程度賑わってるべきでしょうけど。シャッター街なんで、俺以外誰もいません!
これ、なんでしょうね。喫茶店かな?たぶんここにメニューのサンプルとかあったんでしょうね。
ここは…、居酒屋?レストラン?もう全然わかんないですねー。
はい、ではもう少し歩いて奥まで行ってみましょう。いろいろ並んでたんでしょうね。
ここの壁とか。もう剥がれて何がなんだかわかりませんが、ちょっとペンキが残ってます。ポップな絵でも描いてたんでしょうか。
で、隣のここは…。
看板も何もかもなくなってますけど、ガラスに跡が残ってて読めそうですね。
えーと…。
靴の…、シバサキ。
靴のシバサキ、だったそうです。へえー。
さてさて、もう大体見て回ったかな。
みなさん、いかがでしたか?今日の“終わってる”シャッター街は?
見事に“終わって”ましたね!
昔は中心部だったっていうのに。悲しいねぇ。
では、今回のシャッター街に、こんにちは!はこれで終わりです。
次に伺うのは、あなたの街かもしれません!
高評価や登録を促すこともなく、その動画は終わった。
今、じわじわと人気を集めつつある『シャッター街に、こんにちは!』。動画のタイトルもアカウント名もその名前である。
毒舌な男がシャッター街を紹介するだけの動画。男は顔を出しておらず、声のみ。顔の位置でカメラを構えているのか、良いとは言えない画質の動画が一人称視点で進む。
この動画のポイントは、どの動画でも必ず地元民と思われる視聴者が「うちの商店街はこんなに廃れていない」と噛みついているところだ。そしてそのコメントをした者を他の視聴者が嘲笑する。そこまで含めてこの動画だと思えるくらい、常に起こっていることだった。
そのため、何かクレームがあるのか、配信者のこだわりなのか、ほとんどの動画は時間が経つと削除されていた。
柴崎もこのわけのわからない動画を楽しんでいる視聴者のひとりである。
しかし、今回は純粋に楽しめなかった。
今日紹介されたシャッター街は、柴崎の地元の商店街だったからだ。
柴崎が大学進学のため地元を離れて2年。地元にいた時、あの商店街はシャッター街などではなかった。休日や平日の夕方は多くの人で賑わう、活気ある商店街だったのだ。
それがたった2年で、あんなに廃れてしまうものなのだろうか?
『少し前までは賑わってたのに』
とコメントを打とうとして、柴崎は思いとどまった。きっと他の視聴者からバカにされて終わるだけだ。かつて、自分がしていたように。
配信者が紹介していた喫茶店も居酒屋も、2年前は営業していた。ペンキの跡、というのは、地元の高校の美術科の生徒がボランティアで描いた壁画のことだろう。あのポップでかわいらしい絵は、2年前は綺麗に残っていた。
そして、最後に紹介された、『靴のシバサキ』。あれがいちばん不可解だ。
あの靴屋は、柴崎の伯父が営んでいるのだ。
年中無休を美徳としている伯父が、店を畳んだなんて話は聞いたことがなかった。
本当にシャッター街になったのだろうか。
それとも、勘違いで実は他の街なのだろうか。
もう一度最初から最後まで動画を見たけれど、間違いなく、柴崎の地元の商店街のようだった。
釈然としないまま、柴崎は動画サイトを閉じた。
柴崎が帰省のついでにあの商店街に寄ったのは、それから1ヶ月ほど経った日のことだった。
シャッター街になったとしても、自分にとっては思い出の場所だ。
しかし、商店街に足を踏み入れ…、柴崎はぎょっとした。
人、人、人。
人で溢れている。
賑わっている。
シャッター街などではない。むしろ、シャッターなどどこにもない。
あの喫茶店も。居酒屋も。壁画も。ぜんぶ、ある。
そして『靴のシバサキ』も。
窓ガラスには、でかでかとした緑色の『靴のシバサキ』というゴシック体が踊っている。
「おう、久しぶりだな」
思わず店に入った柴崎に、伯父は陽気に手をふった。
「伯父さん、少し前にこの店閉めたりしてた?」
挨拶もそこそこに柴崎が尋ねると、伯父は眉間に皺を寄せた。
「店を閉める?俺が?そんなわけないだろ。俺はいつだって年中無休だよ」
「でも…」
じゃあ、あの動画は?
あの廃れたシャッター街は、何なのだ?
柴崎はいそいでスマホを取りだし、動画サイトを開いて『シャッター街に、こんにちは!』のアカウントを探した。
新たなシャッター街の動画が並んでいる。
しかし、いくら探しても、あの動画を見つけることはできなかった。
※フィクションです。
ホラーを書いてみたい。