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『君とゆきて咲く~新選組青春録~』感想

 NHKを除く地上波のテレビ局から”時代劇”がほぼ消滅していた2024年。そんな中テレビ朝日と東映が“シン・時代劇”と銘打って企画・制作した『君とゆきて咲く~新選組青春録~』が突如現れた。時代劇自体はBSや時代劇専門チャンネルといったCS局、ネット配信等などで制作されてはいたが、民放地上波では久しぶりである。チャンバラ好きとして血が騒がない訳がない。

 この作品の原作は手塚治虫の『新選組』。それを凪良ゆう原作のBLドラマ『美しい彼』を手掛けた坪田文が脚色している。ネットの感想を見ると「BLっぽい」という意見が多いが、恐らく意識しているのは登場人物の配置や映像のトーン含め、昨今流行している『陳情令』などの中国ブロマンス時代劇なのではと個人的には思う。また手塚治虫の原作は、『ポーの一族』『トーマの心臓』などで知られる萩尾望都が漫画家を目指すキッカケになった作品なので、この方向性はあながち間違ってないのではとも思う。


 桜の下で出会った新選組の若き隊士・深草丘十郎と鎌切大作の2人が、花火の下で別れる構成が儚い。父親の仇を討つために入隊した純粋な丘十郎、飄々としながら影のある大作。実は大作は丘十郎の仇である長州藩士・庄内玄悟と共に松下村塾で学んだ同志であり長州の間者であった。第1話の冒頭は花火の下で丘十郎と大作が斬り合う所らから始まる訳で、二人に別れが訪れることは初めから明示されていた。

 共に過ごす中で強い絆で結ばれていく二人は、お互いを「失いたくない」と思っていく。かつて安政の大獄で同志・光永藤次を失った大作の方がその思いは強かった。なるべく丘十郎が自分のような“剣鬼”に堕ちないように願っている。しかし皮肉にも大作の願いは、丘十郎の大作への思いで断ち切られてしまった。

 第一章のクライマックスは池田屋事件。丘十郎は親の仇である庄内を斬る。しかしここでは復讐心ではなく、大作の守りたい一心というのが強い。かつての親友をいま思う人が斬ってしまう、大作にとってこれ以上皮肉なことはないだろう。この場面が本作の中で最も鬼気迫る一大ハイライトだと思う。山南敬助脱走と丘十郎・大作の決着等、修羅の連続のような第二章の幕開けに相応しい。二人のやり取りを丁寧に描けば描く分、ラストの“別れ”がどんどん儚いものへとなっていく。

 “シン・時代劇”と銘打っているため、新選組の羽織はお馴染みの浅黄色のダンダラ模様ではなく、登場人物たちの髪型も自由だ。その一方で東映京都撮影所で撮影されているため美術面には説得力がある。出演俳優の大半は仮面ライダーやスーパー戦隊経験者のためアクション経験豊富で殺陣も良い。この辺りのバランスが非常に良かった。ただ、往年の時代劇のような正体バレバレの黒衣の剣士の登場はご愛嬌ということで(これ自体は手塚治虫の原作にも登場する要素)。

 ”シン”の部分は髪型や衣装だけではない。人物描写もそうだろう。その代表格が壬生浪士組局長・芹沢鴨で、第一章においては彼の存在感が作品を支えていたと言ってもいい。過去の作品では粗暴な人物として描かれがちな所、本作では先見の明のある策士として描かれ、丘十郎の成長を促すメンターでもあった。

 その後続報もなく、この”シン・時代劇”に放送時間は元のバラエティー番組枠に戻ってしまった。せっかく立ち上げたのだから、もう一作くらい“シン・時代劇”を、とびきりエモいのをお願いしたい。

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