プチ・トリアノン
真っ白な世界
夢見るような、真っ白なドレスに身を包み、ふありと帽子を被って
大好きな人たちと楽しげに、まるで少女のように笑い、話し
観劇したのは何年も前でもう遠い記憶、セリフも曖昧なのだがそのプチ・トリアノンの場面で、今のままではいけないと諭すフェルゼンにアントワネットは「どうしていけないの」、確かそんな風に返していた
あまりに無邪気に
無垢な声色で
アントワネットの悲劇
14歳の少女は子どものまま妻となり、母となり、フランス王妃となった
あまりにも有名な史実だが、彼女の幼さは悪評と反感の対象、革命への雪崩の始まり、そうでしかなかった
けれど彼女もその瞬間切実に生きていた
妻として、母として、王妃として、立場は十分に理解していて、それでもただひととき心のままに生きてみたい
そのひとときの彼女の切実さはフェルゼンを愛すること
その声色は切実さに満ちていて切なさに涙した
花總まりが数々のプリンセスを演じることができた理由はたくさんある
生まれ持ったスタイル、佇まい、品性、努力のすえの仕草、発声、ドレスさばき…挙げればきりがない
けれど私が彼女の作り上げるプリンセスを愛するのは彼女の演じる「その『人』の切実さ」の表現だと思う
ある小説家が小説家志望の若者に向けて「切実さやキャラクターの性質を文章でしっかりと表現しなさい」と言っていた
「切実さ」は心を動かし、様々な感情を呼び起こすものではないか
私は花總まりの品のある美しさに惹かれるが、観劇する私たちとはかけ離れた存在であるプリンセスを「生きる人」として観せてくれるから、どうしようもなく魅了されるのではないか、そう思っている
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