CFO思考でアニマルスピリッツに火をつける【Yuの本棚③】
皆さん、こんにちは!
Yuです。久々のnote更新です。
前職を退職し一橋MBAに入学してから怒涛の春夏学期でしたが、
7月末からひと月ほど夏休みに入りました。
新卒から3年間営業畑だったので、
特に財務会計の授業は知識不足からキャッチアップが大変でした。
それでも最終課題では、自身をアクティビストファンドだと仮定して、
リサーチした企業に経営改善を求める株主提案やTOBを仕掛けられるようになりました(笑)
夏休みは、現在携わっているアクセラレーターでのSales業務も行いつつ、
積読リストを読み進めていきたいと思います!
1.今回の読書:「CFO思考」
財務会計の授業でアクティビストファンド側の視点を体験しましたが、
日々投資家や個人株主との対話に取り組む企業側の視点も学びたいと思い、
今話題の「CFO思考 日本企業最大の欠落とその処方箋」を読んでみました。
著者の徳成さんは、三菱UFJフィナンシャル・グループCFO(最高財務責任者)、米国ユニオンバンク取締役を経て現在ニコンのCFOを務めている方。
日本企業におけるCFOとグローバルCFOの違いや、CFOの責任範囲など論旨が明確で分かりやすい本でした!
以下で内容をサマリーでお届けします。
2.なぜ今「CFO思考」が必要なのか
CFO思考とは、「CFOは冷徹な計算と非合理的なまでの熱意を併せ持ち、企業成長のエンジンとなるべき」と考える思考法と定義する。
これは、従来の日本の経理・財務担当役員に多く見られる「CFOは企業価値保全を第一義にすべき」という「金庫番思考」とは区別される。
上記を前提に、日本の一人当たりGDPや株価が横ばいになり、国際的に競争力が落ちている現状を打開するには、企業がアニマルスピリッツを持つことが必要である。そのアクセルを踏むことがCFOの役割であり、CFO思考を持つことに繋がるということが本書の結論である。
ここで述べられているアニマルスピリッツとは、「実現したいことに対する非合理的なまでの期待と熱意」を指している。
3.日本経済はなぜアニマルスピリッツを持てなかったのか
日本経済がアニマルスピリッツを持てなかった理由はいくつか挙げられる。
一つは、日本の資産運用業界は資金の出し手や金主も、運用者やファンドマネージャーも双方が欧米に比べて安定志向だからである。
これは日本におけるアセットオーナーの多くは年金性資金でありリスク許容度が低く、運用対象も流動性のある株式や債券が中心になっているためである。これに対して欧米は、年金基金に匹敵するファミリーオフィスや大学基金があり、不動産やPEなど低流動資産への投資も行っている。
また、資産運用会社サイドも、日本においては銀行や証券のグループ会社が多く、サラリーファンドマネージャーがほとんどとなっていることも一つの要因となっている。欧米の独立系資産運用会社のファンドマネージャーは運用成績でクビになるリスクを抱えている代わりに、成績次第でアップサイドが大きく狙える報酬体系になっている。サラリーファンドマネージャーは運用成績によるアップ・ダウンサイドが限定的であり、リスクへのインセンティブが働かない構造になっている。
二つ目の理由として、日本企業におけるこれまでの経営陣が資本主義のルールを理解できていなかったことが挙げられる。
具体的には、企業の継続性を重視し、安全第一でブレーキを踏み続ける「金庫番思考」になっており、リスクを取って成長のために施策を打つ風潮がなかったことを指している。
特に、これまでの経理・財務担当役員は、資本市場からの資金調達ではなく、銀行からの借り入れが主要な調達手段だったこともあり、資本市場以上に銀行との関係維持に時間を費やしていたことが問題であった。
結果的に、日本企業の多くは資本市場との対話を怠り、プライムとスタンダード市場に上場する日本企業の半数以上が、解散価値と言われるPBR1倍を下回ることとなっている。
日本は統計上も「企業がもっとも経営破綻しない国」である一方で、潰れもしないが成長もしていないという状況に陥っていたのである。
CFOはこうした中で、PBRの改善が求められている。
PBRはROEとPERの積であるため、解散価値以上に株価を上げたいのであれば、ROEを高めるか、PERを高めるか、その両方か、ということになる。
そしてPERを改善するためには、資本コストを引き下げるか、期待収益率を高めるかという二つの方策がある。
そのためCFOの仕事は、資本コストを低減するために収益の安定化や業績予想の精度向上に励みサプライズの無い経営をすることと、バランスシートと一体となった成長戦略を打ち出すことを通じて期待収益率を高めることとなる。
4.CFOの役割は何か
それでは、企業価値を向上させるためにCFOが担う役割は何なのか。
前提として、これまで日本で使われていたCFOと欧米流のCFOは意味合いが異なる。
米国で生まれたCFOは、CEO・COOと合わせた3名が経営の意思決定を行うCスイートと呼ばれる経営体制の一つの役割である。そのため、欧米型のCFOの管掌範囲は、M&A戦略や戦略投資からサスティナビリティ対応、IR/SRに加えて、DXやIT投資もカバレッジとなっている。
一方で日本におけるCFO(経理・財務担当役員)は、社長のもとに多くの担当役員が並ぶ多数合議型経営体制の一人であり、欧米では管掌に入る経営企画部門やIR部門が別個に存在しているケースが多い。(経営企画は日本特有の部門)
そのため、日本の経理・財務担当役員がCFOの名刺を携えてと海外の機関投資家と面談する際に、経営戦略に関する質問に直接答えられず経営企画担当役員に依頼するというケースも起きてしまっている。
上記から冒頭に立ちかえり、日本企業の価値向上には、例え多数合議型経営体制の一人であっても、欧米型のCFO同様に、日本の財務・経理担当役員もCFO思考を持つことが重要であり、それが企業の活性化に繋がる。
CFOが企業を活性化できる理由は3つある。
一つは、経営トップであるCEOに影響を及ぼせる立場にあるためである。
日本では取締役会や監査がリスク管理に重きを置き、CEOのアニマルスピリッツを刺激してリスクを取るように背中を押す傾向はない。
だからこそ、日本企業においては、CFOがCEOの伴走者となり、企業戦略上やるべきだとCEOが考えている案件については、リスクキャパシティに収まっている限り実現のサポートをする必要がある。
CFOは、各戦略投資案件について、健全性の最終防衛ラインである「金庫番思考」は持っている一方で、リスクが起きても健全性に影響が出ない範囲においては攻めのGOサインを出すことができる立ち場なのである。
二つ目は、リスクと資本と収益の三位一体のマネジメントができる立ち場にいるためである。
CEOのアニマルスピリッツを刺激するうえで、CFOにはリスクと資本と収益を三位一体に捉え、マネージする能力が求められる。
収益はリスクを取らなければ生まれないし、リスクは無制限にとれるわけではなく、資本というクッションに範囲に限られる。
そのため、CFOに立ち場にあれば「この範囲であればリスクを許容することができ、どのような設備投資やM&Aができるかを考えることができます」とCEOに示唆することができる。
結果的にリスクを取って生まれた収益は資本に追加され、更にリスクキャパシティが拡大し、リスクをとる余地が生まれ、企業に成長に繋がるのである。
三つ目は、「顔役」として社内外に影響を及ぼせるためである。
CFOは決算発表記者会見においても、経営陣がリスクに飢えているとアピールすることができる立ち場にある。
前向きでチャレンジングな言動を続けていけば、自社内のマインドセットを変えることに繋がり、対外的にも提携話や買収案件が持ち込まれやすい環境になる。
5.結論
企業経営においては、アクセルとブレーキを踏み分ける経営判断が重要となる。
新しい時代の日本企業のCFOは、時には事業リスクを取るエンジンにもなり、時には数量的期待値分析で過度なリスクテイクにブレーキをかける役割も果たすことが求められる。
つまり、CEOと伴走し、企業を財務的に健全に保つことだけではなく、
適切なアニマルスピリッツを発揮できるように、
経営トップや企業全体のアニマルスピリッツを保護しながら、
発揮するべき時には背中を押す存在になることが役割となる。