『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ』
物語の舞台となるのはアメリカ・ボストン近郊に位置する寄宿制学校「バートン校」。堅物な性格ゆえに学内で嫌われている古代史教師のハナム、クラスメートや教師とたびたび衝突を起こす問題児アンガス、最愛の息子をベトナム戦争で亡くし、心に傷を負っている料理長メアリー。この3人が中心となって物語は展開していく。
季節は12月。クリスマス休暇を目前に色めき立つ校内。旅行の準備を進めていたアンガスだったが、母から再婚相手とのハネムーンを優先したいという連絡を受け、旅行は急遽中止になってしまう。休暇中、やむを得ない事情で帰省できない生徒たちは学校に留まることになるのだが、アンガスもその”居残り組”に加わり、学校で休暇を過ごすはめになる。そんな彼らの監査役を引き受けたのがハナムである。休暇中でも容赦なく、普段と変わらない調子で生徒たちを指導するハナム。そんなハナムの厳しい管理体制に疲弊し、不平不満を口にする生徒たち。しかし、休暇に入って数日が経ったころ、彼らに転機が訪れる。居残り組の1人であるスミスのはからいで、生徒たちはスキー旅行に行けることになったのだ。唯一、母親と連絡をとることができなかったアンガスを除いて。これで学校に残ったのはハナム、アンガス、メアリーの3人に。どうしても学校を抜け出したいアンガスは、ありとあらゆる手段を使って脱走を試みる。その最中で起こるある出来事をきっかけに、ハナムとアンガスは「アントルヌー(2人だけの秘密)」を共有することとなり、啀み合っていた関係性に変化が訪れる。
ハナム、アンガス、メアリーはそれぞれ後ろ暗い過去や、誰にも打ち明けられない悩みや苦しみを抱えていて、周囲から孤立している。しかし、休暇中に生活を共にし、お互いのバックグラウンドや人となりを知っていくなかで、彼らは次第に打ち解けていく。クリスマス当日の食事中、「こんな家庭的なクリスマスは初めてだ」とアンガスが思わず口に出してしまうほどに。
本作には「過去をどう乗り越えるか」というテーマが内包されている。劇中、ハナムが「古代ギリシャ人は考えた。人は過去に導かれ、運命を生きる。……それはたわ言だ。」と嘯く場面がある。過去なくして現在が成り立たないのは事実。だが、未来はどうだろうか?未来も過去によって運命づけられてしまうのか?その問いに対して、本作は全力で「NO」を突き付ける。
快晴の下、街道を走り抜ける一台の車。そのラストシーンには、未来への希望が溢れている。