3.23 世界気象デー
今ここで私は
降りしきる雨雪を眺めている
三月も終わりだというのに
ここではまだ窓際の息は白く曇り
外では石綿色の雲から
どこからともなく風に流されてくる
灰のような水っぽい雨雪が
目の前を次々に通り過ぎてゆく
私は今ここでそれを眺めている
薄く白いワンピース一枚で
裸足の指先は色を無くし
唇はもう青紫に凍えているけれど
私は今外で
雨雪に降られている様を想像して
冷たくなった肌に歓喜しながら
静かな湖畔の石になりかわろうと
長い黒髪の先から段々と石に変わろうと
そう願って雨雪を眺めている
地球上ではどこかの夜に
外はマイナス七十度の世界で
家の中で歯を磨き終え
暖かい布団にくるまれて半袖で眠る
幸福な女の子がいるだろう
どこかの昼に
灼ける砂を踏みしめて
少ない水を飲みながら
離れた大きな街を目指す
決して裕福ではないが頼もしい
駱駝と青年もいるだろう
どこかの朝には
晴れた空の下で温い水に浸かりながら
ただぼんやりと朝の海に体を任せ
ドロップス色の魚を眺める
おばあさんもいるだろう
そして今
私はこの薄暗い夕方に
灰色の景色の中で
連続的に降りしきる雨雪を眺めている
世界に存在するたくさんの天気が
少しずつ蠢きながら
同時に存在している
球体の上の
その天気の一部に
切り取られた私が存在している
今ここの世界
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