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ノンデリになってしまう技術者という仕事

「ノンデリ」

ノン・デリカシーの略。
デリカシーが無い人を指す言葉。

技術者はこの、ノンデリになってしまいがちです。

Xで見かけた投稿で他人事じゃないなと思ったものがありまして。

“美容師さんに髪が傷んでいることを指摘されたので「タイミング的に子どもを乾かしたり寝かしつけ優先で自分の髪を乾かすのが後回しになってしまいます」と言ったら「結構傷んでるので洗ったらすぐにオイルつけて乾かさないとダメですよ」と言われてモヤモヤ...”というような内容。

多くの反応が美容師さんを批判するものでした。

「子どもを放置しろってこと?」「優しくない」「自分も美容師に失礼なこと言われた」「接客業失格」

ピアノ調律師もこう捉えられてしまう危険性をはらんでいます。お宅に上がり、家に置いてある生活に紐づいたものをメンテナンスする仕事上、ときにはピアノのためにその方の生活の一部にダメ出しをせざるを得ないこともあるので。

部屋干ししないでください。ストーブの上にヤカンを置かないでください。カーテンを閉めてください。除湿機の水を捨て忘れないでください。なるべく弾いてください。

全部ピアノのためではありますが、人の生活に口を出していると言えなくも無いです。どんなに取り繕っても、「あなたの行動によってピアノに悪影響が出ています」と言う指摘であることに変わりありません。なのでこのあたりの伝え方はかなり慎重になります。

エクスキューズが多いと伝わらない

ただ、気を使いすぎるあまり伝え方が遠回りになると、間違って捉えられてしまったり緊急度が伝わらない懸念もあります。

この美容師さんの話、プロとして、髪に問題があるからそれを伝えることも、対処法をまずは正論からスタートすることもむしろ誠実だと感じました。

逆に初手から個人の生活のことまで考慮してのアドバイスは(求められているのでなければ)入り込み過ぎで、それこそデリカシーを欠いた行為だと思います。

技術者としても、全ての人に事情があることはわかった上です。なにを捨ててでも理想とされる管理やケアをするべきとも、できるとも思っていません。本当は穏便に済ませたいし、ダメ出し的なことを伝えるのも気が引けるんですよね。雑談でハッピーな話だけできるのであればどれだけ楽か。

プロとしての責任

でも自分が伝えないで誰が伝えるの?と考えると、やっぱり強い心で言わざるを得ない。目の前の問題を放置して、「いろいろ大変だと思うので全然このままで大丈夫ですよ」と言うのは、優しいと見せかけて実は誠意に欠ける行為です。

プロとしてはまずは一旦個々の事情は置いておいて、誤解の無いように正論=理想を提示したいと言う気持ちはよくわかります。まずは技術者とお客さんの「理想はここですよね」と言う共通のラインを確認する。そしてそれをどう取り入れるか、はたまた無視するのかは、受け取り側自身で判断する範疇です。

技術者にも接客業的な側面はあるけれど...

もちろん相手に嫌な思いをさせずに上手に伝えられれば最高ですけどね。僕自身もそういう技術者でありたいと考えていますが、決して本当のことを伝えること以上には大事だとは思いません。車に気づかず赤信号を渡ろうとしている人がいたら怒鳴ってでも止めることが最優先なように。

髪と関係ないダメ出しをされたのであればこそ、これで美容師さんが批判されてしまうのはちょっとどうかなと思ってしまいます。それこそカスハラになり得ると言うか、求めすぎ。立ったままレジ打ちをしろと言うのと本質は変わらない気が。

とは言っても感情的にはやはりバチバチの正論をその場でぶつけられても…責められてる気持ちになってしまうのもわかります。

会話で伝えるとちょっとキツくなる

それもあって僕は、厳し目な内容をお客さまに伝えないといけないときにはその場での説明はそこそこにして、noteやホームページに事前に(ここ重要)書いた記事を送り後でゆっくり読んでいただくようにしています。

まずは「あくまで個人の事情とは切り離した正論はこれです」と言うことをわかってもらい、「今の状況ではそことの差分はどのくらいで、どうやって埋めるか?」というステップに進むためには、会話でコミュニケーションを取るだけが正解じゃないのかもなと思います。

技術者に不穏な話をされた場合、話している感じに対して実際の緊急度は3割増しくらいに考えた方が良いかもしれません。

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つくし@ピアノ調律師の書斎
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