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鈴を持つ者たちの音色 第六十話 ”準備②”
BOO(武):「大獣はタイミングを待っている」
大男ガイム:「ああ。あれは倒れたフリだな。相手を油断させ、頃合いを待っている。一撃で3人一度に仕留めるタイミングを。笑。なんて野蛮なんだ。戦闘を楽しんでる。それはどんな状況でも」
BOO(武):「さて。こんな状況だ。助けにいくか。同じ大獣同士だ。いくらビガーだって仲間には手を出さないだろう」
大男ガイム:「そうですね。いきましょう」
BOO(武):「入るなら鉄格子の真上しかないわ。登るのが億劫だわ」
大男ガイム:「それじゃあ、腕輪を外します?」
BOO(武):「ばかっ。そんな事したら檻どころじゃ済まなくなるわ」
ふたりは檻の鉄格子を登り始めた。
真上を見上げると2個の”たまご”は丁度格子の上に到着した。
大男ガイム:「(さて、あそこからどうするのかな?)」
BOO(武):「中に入りたそうだわ」
大男ガイム:「さすがにもう、転がっては降りられないだろう」
2個のたまごは躊躇しているように見えた。その時、
BOO(武):「あっ、飛び込んだ!」
2個の”たまご”は格子のてっぺんから真下に飛び込んだ。自分の意思で。
楕円形の”たまご”が何度か縦に回転しながら落ちていく。
BOO(武)と大男ガイムには”それ”がわかった。
落ちながらもしっかりと着地点を確認してバランスをとりながらその場所を目掛けて落ちている。
大男ガイム:「大したもんだ」
BOO(武):「”たまご”のくせに」
「ガチン!」
と”たまご”は着地した。ビギビギ‥ビギビギ‥
「カランッッ」
BOO(武):「割れた!」
もうひとつも同じだ。
着地点を中心に”たまご”の殻が割れる。
いや割れるように”たまご”の意思が仕向けた。着地衝撃を利用したのだ。
脚が出た。鳥のような脚だ。鉤爪が鋭く光る。
胴体は隠れているが、身震いして自分で厚い殻をふるい落とす。
ふわふわの白い体毛が露出した。頭にはまだヘルメットを被った様に殻が残ったままだ。
BOO(武):「あれは?知らない色だ」
大男ガイム:「珍しい色。真っ白だ。あれは、おそらくホワイトビガー。それも産まれたてだ」
BOO(武):「ビガーに会いたくてここまで自分の意思で転がってきたのね」
大男ガイム:「遠くにいても気配以上に察するんだ。野生の感覚は」
BOO(武):「私たちも変身したら同じよ。今は人間色が強いから気付かなかったんだわ」
2匹の大獣の赤ちゃんがビガーに近づいていく。
頭の殻は被ったままだ。まるで小ちゃなケ(毛)バイ宇宙飛行士のようだ。
大獣が起き出した。
同時にキックスたちの”縛り”も解れた。
グウワァー!!と大獣が吠える。
2体のホワイト赤ちゃんはビガーの足元に擦り寄った。
大獣が言葉を発した。
人間にも聞こえるように脳に発している。
大獣ビガー:「我はビガー。この”グランドライン”をはじめて総治した初代だ。このホワイトチャイルドは私の子孫だ。壊されないように時代を行き来して、ようやく孵化した。
そこにいるふたり。
この子達が言っている。
よくしてくれた。と。
君らは何なんだ?同じ”臭”がするぞ」
BOO(武):「私は混同種よ。隣にいるこの男もよ。ハッキリ言うわ。私の中にいる大獣はあなたの子。1代目を宿している。そして隣の大男。この男の中にいるのは、おそらくそこにいる赤ちゃんホワイトビガーの赤ちゃんだ」
大獣ビガー:「‥ということは、その男。来世から来たんだな。どうだ?来世は平和か?」
大男ガイム:「いや。相変わらずだ。人間のやることといったらいつも同じだ」
大獣ビガー:「戦争か。考えてみれば俺たちだってそうさ。命は大事だし、仲間割れだってしたく無い。戦争をし出すのは決まって人間だ。お前達だって可哀想よ。大獣を封じ込めるだけに人間の器を使う。。なんて残酷なんだ」
BOO(武):「わかっているさ。人間は残酷なんだ。けれどもいくら人間を憎んだってこの身体は変わらない。なら、受け入れてふたつの身体を生きる。それしかないだろ」
大男ガイム:「俺はむしろ感謝している。この身体があるから誰よりも強くなれた。大獣のこの計り知れないパワーは一体どこから湧いてくるのか。あまりの力が沸いてくるものだから制御するのに大変なんだ。
だからビールをのむしかない。毎晩だ。そしてその砦のBARで人生が変わった。マスターPに会い制御出来る腕輪をつけてからなぁ。あの腕輪のおかげで人間らしく生きていられる」
大獣ビガー:「わーはぁーはぁっ(笑)。人間らしく‥?そりゃ面白い。悪いがなぁ。そう言っていられるのも今のうちだぞ。大獣を甘くみるな。そのうち自制を無くし、大獣化に近づくはずだ。そうなったら”こちら側へ”待ってるぞ!‥ん?(ホワイトチャイルドが何やらしゃべっている‥」
大獣ビガー:「‥そうか。わかった‥。そちらのお方がた、どうか本来のお姿に戻ってくれないか?手はあげない。戦況は変わった。この子から今、聞いたよ。眠っていた”たまご”を洞窟から発見し、この本部まで隠して持ってきてくれたのは君たちだって?」
キックス兄弟はミューマンからキックスへ人間の姿へと戻した。
BOO(武):「えっ!キックス兄弟じゃないー」
BOO(武)はここで気づく。
キックス①:「えへへへ。兄いやっぱりうちらのした事は正しかったねぇー‥」
キックス②:「ああ。ヤバかった。けれども普段の行いって、こんな時にやっぱり出るもんなんだなぁー‥へへへ」
巡回員グリーンは床にへたりこんだ。
巡回員グリーン:「へへへ。怖かったーぃ」
キックス②:「それにしてもタフだ。あれだけの衝撃をくらっていて、へのへのもへじーだものなぁ」
キックス①:「ああ。あのタフさは素晴らしい。あのぐらいミューマンもタフならなぁ。」
キックス②:「今回のミューマンの実戦を得て改良するところが見えた。早速改良するぞ」
キックス①:「ああ。いいけど、ちょい待ち。その前に風呂入って腹ごしらえしよう。おいらガス欠寸前さ」
巡回員グリーン:「同感!」
そこへ大叔母がやってきた。
大叔母:「準備じゃあ。皆!
大獣ビガーよ。貴方にも頼みがある。そこの赤ん坊たちにもじゃあ。よく聞いて欲しい‥」
大獣ビガー:「ふんっ!大叔母。お前の魂胆は見え見えだ。戦に参戦しろ。と言うんだろう。わかっている。人間の住む場所がなくなるということは我らの場所が無くなるのも一緒。参戦しようではないか。”アイツラ”は私を何年も封じ込め利用してきた。反撃したくてウズウズしている」
大叔母:「それなら話は早い。ここにいる一団は重要な仕事になる。湧いて出る源泉を断ちに行ってもらう。ATOYO-T星だ。あの星へ行き”アイツラ”の生産工場を更地にしてもらう。草の葉ひとつ刈り取ってきてくれ」
キックス兄弟:「‥え?‥?‥」
巡回員グリーン:「惑星ひとつ?‥」
大叔母:「巡回グリーンよ。お前はまだ気づいていないが、お前にはキックス兄弟のような機械を製作したり整備する能力が強い。もっと自信を持っていいぞ。惑星にいったら鍵を握るのは”君”だ。
なぜなら、この人数で”アイツラ”の生産工場へ乗り込むんだ。キックス兄弟は攻撃体になり参戦者となる。そうなれば”リカバリー”をする者がいない。その穴を埋めるのが”君”だ。君がしっかり皆をメンテナンスし”リカバリー”をするのだ」
大叔母:「そしてキックスよ。大獣ビガーはあの通りだ。アタッチメントするより独りよがりで戦わせた方が力を発揮する。そこでじゃ、惑星へ行ってアタッチメントするなら、あの子らにせいっ」
キックス①:「あの子らって‥まさか、あのホワイト赤ちゃん?」
大叔母:「そうじゃ。赤ちゃんと言えど、あの子らは素晴らしい戦士となる。見たろ?”たまご”のままで、この鉄格子を登り己の殻を破ったのだ。考えてみろ。あんなまんまるな球体でどうやって鉄格子を登れるというのじゃ?」
キックス①:「そりゃそうーだけど‥」
キックス②:「大叔母が言うってことは、それなりの能力者だってことだ。ビジュアルひとつで思い込むな。信じよう。ホワイトビガーとミューマンのアタッチメントだ」
BOO(武):「おもしろー。双子と双子がそれぞれ合体するなんて!」
大男ガイム:「ばぁちゃん。それなら俺らも何か大技を考えないとな。すごい数の”アイツラ”と戦うことになる。ひとり頭のノルマは100ヒャクできくか?」
BOO(武):「うむ。そうだな。キックス達がミューマンを改造するまで時間はある。特訓だ」
大獣ビガーが「グォーー!!」と吠える。第二部隊の編成だ。その姿はATOYO-T星を満月に例え、向かって吠える狼そのものだった。