提言⑧ブランド化戦略(1)「選別化」
地域のブランド化が叫ばれて久しい。
こういった地域の特産品を大都市圏にPRする取り組みは、全国で行われている。
こうした戦略は短期的にみれば、効果があるだろう。
しかし、同じような競争相手が全国にいる中で、どうやって差別化を図りながら、地域のブランドの価値を高めていくか?というと課題は山積みである。
たとえば「りんご」。
2006年時点で、我が町の「りんご」の生産量は全国25位だった。それ以降市町村単位での集計データが見つからないが、岩手県は全国で3位の生産量を誇るリンゴの産地であり、我が町のリンゴの生産農家は300を超える。
一方で全国的なシェアでいうと、生産量第1位の青森県と第2位の長野県が全国の75%を占めており、岩手県は第3位といっても6.5%。
岩手の「りんご」を全国に知ってもらうには、結構高いハードルがある。
それでも、岩手県として「りんご」をブランド化しようと取り組みはおこなっており、我が町の若手生産者の取り組みも岩手県のホームページに掲載されている。
この若手経営者の方々の中に知り合いも多く、彼らの取り組みを非常に高く評価しているが、やはり生産者の方々は1年を通して忙しく、生産、出荷、販売のピークである9月~12月は、会ってお話しするのも難しいくらいだ。
ブランド化のためには、こういった地道な取り組みに加え、生産者をバックアップしながらプロモーションしていく体制が必要である。
これまでも、行政や農協、関係者などによるバックアップは行われてきた。一つには行政の幹部のトップセールスであり、大都市の成果市場等に売り込みをかけるということもあった。
だが、我が町の果樹の生産物は「りんご」だけではない。
「ぶどう」や「なし」の生産者もあり、行政や農協が一つの果物、野菜、加工品に特化したプロモーションをすることができない現状もある。
そういった現状で、生産量の大きい「青森県」や「長野県」に対抗していくのはなかなか難しい。
これは我が町の特産物である「ぶどう」や「ワイン」も同じことが言え、それぞれの生産者が頑張っているが、同じように全国各地で「ブランド化合戦」が繰り広げられており、同じことをしていても、大きなムーブメントを起こすことは難しい。
この現状を打破するにはどうしたらいいか?
自分的には、これには2つの戦略がある。
一つには、市外・県外の顧客を対象として「ブランド化」する特産品を絞り、そこに特化してプロモーションしていく「選別化戦略」と、もう一つは特産品の海外展開だ。
昨年度の我が町のふるさと納税の寄付額は、約43億円。
歳入歳出予算が600億円程度の市町村にとって、非常に大きな数字だ。
自分が、担当補佐だったころに比べれば、6年で20倍も寄付額が増えている。返礼品や手数料の額を引いても数10億円の規模で市町村の財源が増える。
返礼品の数を増やすなど、担当した職員の頑張りには感謝しているし、岩手県トップの寄付額(令和2年度)に上り詰めるまでになったふるさと納税戦略に舵を切ったトップリーダーの慧眼にも敬意を表したい。
このふるさと納税には、三つの意義があると総務省は説明している。
「市町村が地域の特産品をブランド化し、寄付者がそのブランド化した特産品を購入しその地域を応援したい・・・」
というような戦略であれば、上記の第二の意義にも合致する。
しかし、本当のところ、寄付者はそのような感覚で返礼品を選んでいるのではない。
実際、令和2年度に岩手県トップの寄付額を集めたふるさと納税をけん引したのは、我が町の加工業者が返礼品として出品した「牛タン」である。
この「牛タン」の牛は外国産で、我が町とは縁もゆかりもない。
寄付者が人気商品の返礼品として「牛タン」を選んだだけなのだ。
それが我が町のブランド戦略には全くつながっていない。
それでも寄付額が増えたので良かったとする向きもあるだろう。
当初は、自分も「ふるさと納税反対派」であったが、実際制度として市町村が自由に使える額が増えている現状を見ると、(しぶしぶながら)肯定せざるを得ない。
だが裏を返せば、こういう「たまたま」当たるような戦略とは別に、きちんと生産者にも還元できるような「特産品」を市町村がプロモーションして売り出していかなければならない。
そのためには「総花的」な戦略ではなく、選別した「特産品」による総合的なプロモーション体制の構築が必要である。
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