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当たり前だけど大切なもの~長男①~

 息子達はこの春、高校1年生、中学2年生、小学5年生になった。長男の出産から15年が経ったというわけだ。実にいろいろなことがあったが、今回は「当たり前だけど大切なもの」について、長男のエピソード①を書いてみようと思う。

男の子現る

 あれは確か、長男が保育園年長さんの頃。息子達は中耳炎になりやすかったため、1年のうちの半分くらいは耳鼻科に通っていたのではないだろうか。冬の時などはほぼ毎日通い、病院の主になっていたような気がする。

 いつものように、耳鼻科の待合室にある子どもスペースで遊んでいた時のこと。2歳過ぎくらいの男の子とその子のお母さんが入ってきた。

 男の子は、見るもの見るもの触りたがり、視界に入ったものはとりあえず触って歩き回っていた。その都度お母さんは「ダメよ」と伝える。全く効果なし。ちょろちょろと歩き回り、患者さんのカバンの中まで手を入れる始末。

 おぉ、お母さんも大変だねぇ・・・。

などと思っていると、その子がこちらへ向かってきた。子どもスペースに入ると、次から次へとおもちゃを投げ散らかして笑っている。どの子も皆不快感丸出しで、母親の元へ助けを求めて駆けて行く。厳しい視線を向けるお母さんもちらほら。

「ごめんなさいねぇ。こら、ダメでしょ。」

その子のお母さんもとても申し訳なさそうで、こちらも気の毒になってくる。

おもちゃの使い方

 その時、長男が動いた。

「これ、使っていいよ。」

 手には小さなぬいぐるみ。その子は、何のためらいもなく長男の手からそれをむしり取ると、嬉しそうに投げた。すると、長男はそれを拾ってまた手渡す。そしてまた、投げる。何度か繰り返した。

「これはね、投げるおもちゃじゃないよ。抱っこするんだよ。」

驚いた。とにかく驚いた。家でお人形遊びなどやったっけ?記憶をたどる・・・せいぜい3歳頃までだったかな?あぁ、そうか。保育園でお人形遊びをやっているのかもしれない。うん、きっとそうだ。

 長男は男の子の手を取り、ぬいぐるみを抱っこさせた。そして、背中をトントンとするしぐさをやってみせた。男の子も真似をして、長男に笑って見せる。長男は別のぬいぐるみを渡し、こっちもやってあげてと伝える。

 涙が出た。

 どちらかというと「オレ様気質」の長男は、決して弟におもちゃを貸すことはない。自分が納得するまでは、絶対に貸さないのだ。遊んであげることも、気が乗らないとしない・・・そんな長男が、自ら男の子に歩み寄り、ぬいぐるみを使って遊んであげている。

 ただひたすら感動した。

 あの時、長男は何を思っていたのか。後から聞いてみると、こう答えた。

「困っている人には優しくしてあげなさいって、教えてくれたでしょ。」

 長男にとって困っている人は、誰だったのだろうか。遊ぶすべを知らなかった男の子なのか、振り回されていたお母さんなのか、それともかばんを触られた患者さん達だったのか・・・。

 長男の男の子への働きかけで、全員が救われたことに間違いはない。

当たり前のことを当たり前にできる人

 「人に優しくする」のは当たり前のことだ。でも、それをするのには勇気がいるだろうし、思っていても恥ずかしくてできないこともあるだろう。それを「当たり前のこと」として行動に移せた長男を、私はとても誇らしく思う。

 今、長男は高校1年生で、思春期真っただ中。親への反抗が激しい日もあれば、機嫌が悪くて弟達に八つ当たりをする日もある。順調に成長してくれている(と思うようにしている)。

 この先、長男の前にたくさんの困った人達が現れるだろう。長男に対して願って止まないことは、ただ一つ。

 当たり前のことを当たり前にできる人であれ!


◎あとがき◎

 長男は、手がかかるけどとっても可愛いの。思春期を迎えて、最近はなおのこと手がかかるから、母は腹の立つ日も多いのだけれど。そんな時は懐かしいエピソードを思い出して、心を落ち着かせることにしている。今回は、このエピソードを書いてみた。次は次男について書こうかなと・・・お楽しみに!

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