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「宇宙兄弟」が押し続けてくれた私の背中

海外へ行くと、自国のことがよくわかる。

漫画も例外ではない。街の大きな本屋や雑貨店で、日本の漫画やアニメを見かけることがよくある。それも隅っこの狭いスペースではなく、大きな1コーナーで。
ただ翻訳されて読まれるだけでなく、文化理解や言語学習の意欲促進にも繋がるというのだから、日本をPRするための重要なコンテンツであるともいえる。
「日本人です」と自己紹介をすると、
「Oh!JAPAN!ドラゴンボール!ワンピース!」と返されることもあるほどだ。

「どんな音楽が好き?」という質問と並んで「どんな漫画が好き?」と聞かれることもある。その答えだけで趣味趣向がわかるくらい種類があり、かつそれが浸透しているのだから、やはり「漫画」はすごいのだ。

とはいえ、私が漫画を語れるほど読んできたかと聞かれると、そんなことはない。幼い頃は兄の本棚にあった「ドラゴンボール」や「名探偵コナン」を盗み読んだり、学校で当時流行っていた少女漫画(「僕等がいた」「君に届け」など)なら語れる、というくらいだ。

しかし、漫画より小説派だった私が、休日に部屋に篭って夢中で読んだ作品が1つだけある。
「宇宙兄弟」である。

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人生で最も影響を受けた本と言っても過言ではない。今回は「#マンガ感想文」というテーマに沿って、この作品について書きたいと思う。

「宇宙兄弟」は、講談社の『モーニング』で2008年から今も連載している大人気漫画である。アニメや映画で知っている人もいると思うが、これはぜひ原作を手に取って欲しいと思う作品の1つだ。単行本は37巻まで発売されている。(2020年7月現在)

幼い頃からの夢である宇宙飛行士に30歳を超えてから再挑戦する兄・六太(ムッタ)と、兄を信じ宇宙飛行士として夢を叶え続ける弟・日々人(ヒビト)。2人が夢に挑戦していく姿や兄弟愛にもグッと来るのだが、周りのひとたちとの人間ドラマもアツくて深く、「宇宙」というスケールが大きいテーマでありながら、親しみやすいのだ。

時には六太の立場になって宇宙飛行士を目指し、まるで青春をなぞるような気持ちを味わったり。宇宙飛行士として月へ到達し、困難をも乗り越えていく日々人の姿に勇気をもらったり。2人だけでなく、周りの仲間たちがそれぞれの目標に立ち向かい、壁を乗り越え強くなっていく姿も描かれている。登場人物たちのリアルな心の動きや想いを感じるうちに、自分もその一員になったかのような感覚になり、この作品にハマってしまったのだと思う。

この記事だけで「宇宙兄弟」の魅力を全て伝えるのはとても難しいが、ただ言えることは、これから夢を抱く子どもたちだけではなく、夢を忘れてしまった、最近頑張れていない、なんていう大人にこそ読んでほしい作品である、ということだ。

学生時代、漫画を読んでいる間はとても楽しいのに、時計を見ると意外と時間が経っていて、「やってしまった……」と思うこともあった。だが、この作品は違う。
読んでいる時よりも、読み終わった後に影響を受けることが多いからだ。

作品の中にはいわゆる「名言」が多く出てくる。薄っぺらなその場凌ぎの言葉ではない。シーン毎に「これ以上の言葉ってないんじゃないか」と思わされるような、それでいて「うわ、これ!くぅー、わかる。」と読みながら頷いてしまうような言葉たちなのだ。さらに、その瞬間はその発言者が作品の主人公になったように感じられるほど、まっすぐでブレない台詞なのだから、毎回毎回心を掴まれてしまう。

「ちょっとサボっちゃおうか」「ここまででいいか」なんていう甘い考えが頭をよぎったり、弱気になることも、生きていれば当然ある。そんなとき、私の場合、まるで魔法のように「宇宙兄弟」の言葉が、ポンと頭に浮かぶのだ。ーーどこにも書き留めていないのに。

大事なのは結局…
”今"だ
今この訓練がどうやったら最高のもんになるかだけを考えることにした
やったことはきっと僕らの力に変わるはず…
だからケンジ…
ちょっとだけ 無理なことに挑戦してこーぜ
ーー南波六太 「宇宙兄弟」16巻より

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主人公である六太の言葉には、助けられることが本当に多い。どんな場面でも説得力があり、想いが真っ直ぐで、優しい。
日常生活や仕事の目標を立てたとき、実際にやってみるとうまく行かず、迷ってしまうことがある。そんなときは、リラックスしてこの言葉を思い出してみる。今できることを理解して、そこからちょっとだけ無理なことに挑戦してみよう。現状に甘えず、向上心は忘れずに。
不安な気持ちになるときも、何度もこの言葉に背中を押されてきた。

迷った時はね
「どっちが正しいか」なんて考えちゃダメよ
日が暮れちゃうわ
頭で考えなきゃいいのよ 答えはもっと下
あなたのことならあなたの胸が知ってるもんよ
「どっちが楽しいか」で決めなさい
ーー金子シャロン 「宇宙兄弟」5巻より

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優秀な天文学者で、南波兄弟にとって母のような存在でもあるシャロン。どんなときも明るく前向きでいようとする姿に、いつも励まされている。
私は、2つ以上のことで悩むと、それが些細な悩みの時でさえ、この言葉を思い出す。
周りがそういうから、普通はそうだから、こっちの方が褒められるから。そんな考えは一度忘れて。
私はどっちが楽しいと思う?どっちがワクワクする?そうすると、驚くほどすぐに決断できたりする。自分の声を素直に受けとめれば、ふっと心も軽くなるのだ。

本当の"最善"のためなら
"決定"なんて
何回したっていいんじゃねえの?
ーーエディ・J 「宇宙兄弟」24巻より

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NASAのベテラン宇宙飛行士で、スタッフからの信頼も厚いエディ。
大人になってから、仕事においても、なんとなく「決定したものは覆しづらい」と思うことがある。一人で決めたことでなければ尚更、意見も言いにくい。
でも、それがエゴではなく"最善"のためなら、何度でも「決定」できるんだ。いや、していいんだ。決定という概念を前向きに捉えるきっかけにもなった。

行動なき自問自答は不毛だぞ
答えは常に"踏み出した先"だ
お前の考えが正解かどうか
答え合わせをしてみろ
――イヴァン・トルストイ「宇宙兄弟」31巻より

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ロシアに渡った日々人の面倒を見るベテラン宇宙飛行士、イヴァン。日々人への教え方や行動、全てがポジティブで、こんな人が上司にいたらいいのにといつも思う。
このセリフは、行動より先に頭で考えてしまうタイプの自分への喝にもなっている。
「もしこうなったら?」「いや、こっちの方がいいかもしれない」考えてモヤモヤしているときは、自問自答をやめてみる。そうすると「よーし、まずやってみてから考えよう」と前向きになれるから。

そうだな 世の中には”絶対”はないかもな
でもダイジョウブ
俺ん中にあるから
――南波日々人「宇宙兄弟」7巻より

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日々人は、プレッシャーも楽しさに変えられるパワーの持ち主。大きな困難があってもブレない真っ直ぐさや、人に好かれる“タレント性”にも憧れる。
このシーンは「絶対に宇宙へ行く」という日々人に対し、世の中に絶対はないんじゃないの、という六太への返しだ。自分の中にある"絶対"を信じ、真剣に向き合い、努力し続けることは簡単ではない。天才肌のように見える日々人が、実はとても努力家だということがわかる言葉でもある。私も、自分の中に揺るぎない軸を持ち、何より自分を信じていたい!と思わされる。

「上には上がいる」ってことを痛感した時――
打ちのめされるのか ワクワクするのか……
実はあなたは選べるのよ
ーーエミーリア・トルスタヤ「宇宙兄弟」36巻より

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イヴァンの妻で、オリガの母・エミーリアの言葉。初めて読んだ時に「確かに」と思わず頷いてしまったシーンでもある。そしてこれは、上を目指しているオリガや日々人にはもっと強く響くのだろうな、とも思った。
自分より優れているひと、ものに出会ったとき。うっ…と打ちのめされるのではなく、まずワクワクできる心を持っていたい。そうすれば、もっとポジティブに自分を高められるはずだから。


決断力がほしいとき、不安なとき、できないことがあったとき、自分を信じられないときーー
「宇宙兄弟」の言葉たちは、ここ数年、私の背中を何度も押し、時には優しく支えてくれた。そして、それはピンチの時ほど頼りになるものだった。漫画のパワーがここまでとは、正直読む前まで想像もしていなかった。

今回紹介した言葉は、作品のたった一部に過ぎない。(正直、書きたい言葉があと10以上あった) もちろんストーリー展開も最高に面白いのだが、それはぜひ読んで自分で感じてみてほしい。
読んだ後、間違いなくあなたはこの作品の虜になる。そして気づいたら、いつもより前向きになっているはずだ。

8月20日には、38巻が発売される。
このコラムを読んで、気になる!と思ってくれた人がいれば、ぜひ公式サイトをチェックしてほしい。■宇宙兄弟公式サイト

「宇宙兄弟」のおかげでちょっと自信がついた私の背中。しかし、まだまだ頼りない。
いつか2人のように、周りにも影響を与えられるくらい大きな人になることを目標に。これからも、何度でも、強く背中を押してもらおうと思う。

そして、将来海外へ行ったとき
「Oh!JAPAN!宇宙兄弟!」と返される日が来ることを心から楽しみにしている。
そのためにも、まずはこれから始まるであろう本当の「宇宙兄弟」を見届けたい。

ーー「俺らは生きて、一緒に月面に立とうぜ」

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