やどりぎ案内2023 - 奥川の夏、星空と思い出に包まれた8日間 -
2023年8月22日(火)~29日(火)までの8日間「やどりぎ案内」が奥川の中町集落を訪問し、アートプロジェクト「やどりぎ案内2023 - えんの繋ぎ目 -」の夏の活動を実施した。
やどりぎ案内とは、中町集落とアートプロジェクトを通して交流を図るために、東京都内の美大生が中心となって結成したアートコレクティブである。2020年から活動を開始し、昨年初めてのプロジェクトを開催した。今年度は活動を始めて3年目で、夏と秋2回のプロジェクト開催となる。
「やどりぎ案内2023 - えんの繋ぎ目」は、やどりぎ案内のこれまでの活動で繋がった「えん」と、これから繋がれる「えん」を起点に、「シャッターアート」と「移動式拠点」の2つの制作・活用を、夏と秋の2部構成で展開するプロジェクトだ。夏は「制作」に重点を置いて活動し、滞在期間中のうち24日(木)~27日(日)の4日間は公開制作期間として集落内外の方に向けて制作の場を開いた。参加した7人のメンバーのうち4人がはじめての訪問だったこともあり、奥川の土地の魅力とこれまでの活動を通して築いた集落のみなさんとの関係を、客観的に振り返ることができた8日間だったと思う。本稿では、活動終了後にメンバーに聞いた「印象に残っている出来事」から4点取り上げて、今回の活動を振り返りたい。
1.恒例になってきた、集落のみなさんへの挨拶まわり
やどりぎ案内は活動初期から訪問時に挨拶まわりをしている。今回はおもに初日と最終日に集落をまわったが、はじめて活動に参加したメンバーは、この時、集落のみなさんのやどりぎ案内に対する認知度の高さと、自分たちをあたたかく歓迎してくださる包容力に驚いたようだった。訪問回数が増えるごとに精神的な距離が縮まってきたように感じていたが、とくに今回は「やどりぎ案内です」と声をかけた時にみなさんからの反応が早く、そこで「たのしみにしていたよ」と言っていただく機会も多かったような気がする。みなさんのおかげで、奥川を「第2の居場所」であると感じられ、とても心強くなった。
2. 深夜に行った山の上での星空鑑賞
2日目の深夜0:00。月も沈んで空が真っ暗になってから、車で山の上へ星空鑑賞に向かった。実は筆者は3日目以降の参加だったためこれを体験できていない。参加していたメンバーによるとこの時の星空がとても綺麗だったそうで、滞在中に何度もその感動的な様子を聞いた。まわりに高い建物がないおかげで、車の後方に寝そべって空を見上げると目の前にどこまでも星空が広がり、流れ星まで観られたそうだ。「みんな、「あ、流れ星!」って言っているうちにいなくなってしまってお願い事し忘れていたんだよね」と話している様子まで楽しそうだった。
3. 痛感させられた集落の高齢化
「さかや」は、ご夫婦がラーメンなどの美味しい料理を提供してくださる集落内唯一の食堂である。活動初期からたびたび昼食を食べに行っており、ご夫婦は昨年のプロジェクトにも参加してくださった。今回も奥川に到着後すぐにご連絡してお会いし、その後お店にもお邪魔したが、その時、昨年はお元気そうに厨房に立っていらしたご主人が今はほとんど厨房に立てておらず、食堂を続けていくことが厳しくなってきたというお話しをうかがった。集落内の平均年齢が高いことは理解していたが、高齢化によりひとりひとりの暮らしが変化し、集落全体の様子も変わっていくさまを初めて目の当たりにして、何事にも終わりが来ることへの寂しさとやるせなさを感じた。やどりぎ案内はあくまでも奥川に出入りしている関係人口のうちの一部だが、そんな集落外の人間でも、集落のみなさんと私たちのために、この集落で新たな始まりを作り、今のなにかを集落に残していくことができるのではないかと、改めて考えさせられる機会だった。
4. たくさんの美味しい時間
誕生日ケーキ・やたら・大葉のてんぷら・おつまみタラの漬物?・ラーメン・シュークリーム・塩むすび・アイス…8日間の滞在中にたくさんの美味しいものをみんなで同じ食卓を囲んで食べた。差し入れもたくさんいただき、猛暑のなかで食べたそれは身に染みる美味しさで、集落のみなさんの支えあっての活動であることを実感した。また「結」のキッチンに並んで自炊し食べた食事の時間は、知り合ってまもないメンバーに対してもずっと一緒にいたかのような信頼感と安心感を得られる、不思議な生活の1コマだった。
このように今回の活動を振り返ると、プロジェクトの副題にしていた通り、とくにこれまでに繋がった「えん」を強く感じ、それに感謝した8日間だったと思う。コロナ第9波の影響で数日前に突然参加できなくなったメンバーもいて、準備万端とは言い難い状態から活動を始めたが、無事制作を秋に繋ぎ、集落のみなさんともお話しする機会を持てたことは、集落のみなさんの協力と参加したメンバーが活動を全力で楽しもうとする気持ちがあってこそだった。秋の活動では夏の活動で制作したシャッターアートと移動式拠点のお披露目会を実施し、そこで改めてこれまでの感謝を伝え、そしてこれからに対する期待を共有してワクワクできる機会にしたい。
次は、奥川に「ただいま」といって帰りたいと思う。
執筆・写真提供:草刈 ちひろ(やどりぎ案内)