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読書記録「太陽の坐る場所 / 辻村深月」
読んでいるとき、主人公たちと同じ年齢だった。だから、この年齢だからこその苦しい部分が刺さる。この小説は、日本の田舎出身28歳ならみんな刺さっちゃうんじゃない……。
地方の県立高校を卒業して10年後の同窓会。
28歳になった元クラスメイトたち。そんなクラスメイトの中に女優として活躍しているキョウコがいない。自然と話題はキョウコのことに。キョウコを同窓会へ呼ぼうとするが、彼女と連絡を取った元クラスメイトとは連絡が取れなくなっていく――
最初は登場人物が多くて、読み切れるかなあと心配になったけど各章で主人公が別なので分かりやすい。
同じ事柄を扱うにしても別の章から他の登場人物の視点で書かれていて、答え合わせをしているような気持ち。別の視点での気付きを書くのは小説ならではの表現な気がする。小説でしか味わえないスッキリ感。
主人公たちの28歳って難しい。
学生気分もだいぶ抜けて、ステップアップする時期だと思う。
プライベートだと結婚の話は出るし、その後の出産・家族のこと。仕事だと転職や昇進。夢に向かっているならそろそろ成果が出てほしい頃。それとも諦める頃? と思いきや、まだ学生のノリがなければおしゃべりができないような人もいて。
第一章は夢に向かう28歳。私と気持ちが近い主人公だった。
第二章は友情と恋愛の28歳。同級生3人が絡む濃密な短編だった。女の子を可愛いって言うことで自分は土俵から降りる気持ちが痛いほど分かる。
第三章は自分を大きく見せたがる28歳。起承転結の承で終わった感じ。先が読みたかったけれど、ハッピーエンドにはならなさそうな絶妙なラストだった。
第四章は毎年同窓会の幹事をしている28歳。納得するラストだった。見ている人は見てくれているんだなって。
第五章は学生の頃の女王様が転落して28歳。
特に第二章がすき。登場人物への、印象の変化がすごい。
嫌な人だなあと思っていたのに、その人の咄嗟の行動で本心を知ることになる。言い訳をつけてその人を嫌いになりたかったのに、嫌いになんてさせてもらえない感じ。逆に、好きだったのに好きだと思い込んでいただけだったことに気付いた後、自分では動き出せないような気持ち。
この人には敵わないな、自分が浅はかだと知らされるような気持ちがジグジグ染みます。
この読書記録を書き出す日に、高校時代のグループLINEの通知が来ていた。今までほとんど動いていなかったグループLINEだったのに。
内容は、30歳も目前になったので同窓会をしませんか? とのこと。
これってまさに「太陽の坐る場所」みたいな展開じゃん!
人生の転機に立ち始めるこの年代。会いたい元クラスメイトには自分から連絡を取ってはいるけれど、確かに他のクラスメイトの生活ぶりは気になる。
でもキョウコみたいなクラスメイトがいたらどうだろう。
私はまっすぐ祝えるだろうか。例えば小説家や脚本家になって成功している人がいたら私は嫉妬で狂いそうになるが。でもそんな人がいた方が、ようやく唇噛み切るほど頑張れるかも。理系だったので違う路線で成功している人が多そうだが。
うう、28歳の同窓会の小説を読んだ後に、なんでこんなタイミングでそんなお誘いLINEが来るんだ。
新しい知見も広がるだろうし、頑張ろうと思います。今のところ。
【太陽の坐る場所】
作 者:辻村深月
出版社:文藝春秋
発行年:2011(文庫)
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▼読書記録