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【美術ブックリスト】『開かれた社会―開かれた宇宙』カール・R・ポパー
ポパーはオーストリア生まれの20世紀イギリスで活動した哲学者。科学哲学の分野で、科学的研究の方法そのものの概念を根底から問い直した哲学者として知られる。あらゆる法則あらゆる定理といったものは、反証が見出され、新しい法則が発見されるまでの暫定的なものでしかないこと。様々な具体例をもとに帰納的に法則を証明することはできないこと。科学は発展的に進化するとはいうのは誤謬であり、したがってヘーゲルやマルクスの発展史観も誤謬であることなど、社会科学や政治哲学の分野でも主張を展開した。批判の矛先は、フランクフルト学派、精神分析、論理実証主義にも向けられていった。
本書は、テレビ番組向けの対話というか、インタビュー。ジャーナリストであり、オーストリアの健康・環境保護大臣となったクロイツァーが聞き手となって、ポパーの思想を本人に聞く形をとっている。(同様のインタビューは『夜と霧』で有名なフランクルや、動物行動学者のコンラート・ローレンツとも行っている)
ここまでが概要。
ここからが感想。ポパー哲学についてほぼ前提の知識なしに読んだけれども、話し言葉であることと多様な例を用いて説明してくれるのでわかりやすかった。私にとって最も興味深かったのは、なんらかを帰納的に説明することはできても、帰納的に創造することはできないという指摘。例としてあげられるのはモーツァルトで、彼が父親やバッハやイタリアの先人音楽家から数多くを学んだことは確かだが、かれが作曲したものはそれらを寄せ集めて一般化したものではないのは確か。つまり何かを創造するときに、帰納法は無力無意味であるという至極当たり前の事実をテコに、逆に帰納法、帰納主義を批判した点だった。
ここでは音楽に限らず、芸術的な創造すべてが念頭にあり、さらにアインシュタインの相対性理論のような科学における発明(発見といわずあえて発明と言おう)も、同じ資格で創造的といえる。これを古典的美学は「天才」といって創造能力の特殊例として論じてきたが、ここではむしろ創造行為の典型として語られていることが面白い、というか視点の転換がある。それが私には勉強になった。
ところでポパーは最近、全く別の文脈で注目を浴びつつある。というのも、主著『推測と反駁』の中で陰謀論の本質についての記述があり、これが現在流行りに流行っている陰謀論についての最初の哲学的論及とされているから。日本では法政大学出版局の叢書ウニベルシタスの一冊として発刊されている。ぜひ一度読みたいと、にわかに思ったところ。
未来社、162ページ