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【詩】あなたがここにいてほしい
その言葉を口にしたら
きっとそれだけになってしまうね
一つ言葉を吐いてしまったら
その言葉以外は
ないも同然になってしまうから
何も言わなければ
全てが平等な状態で
あるがままでいられるのだろう
表現が美しいのは
きっとその一つを
その一点だけを見つめた
極みのものであるからだけど
抽出されなかった
それ以外は
ないものとして排斥されて
しまうのかもしれないね
降る雪に付随して
ぽつんと立つオレンジ色の街灯も
思い浮かべてほしい
けれどもそれだけじゃなくて、
灯りのギリギリ届かない、
空き地にひっそり積り始めた雪や枯れ木にも
考えを巡らせてほしい
ぽっかり口を開けてしまうかのような
空気の緩んだ青空に
また一年が始まるんだなと思うような休日
けれどもそれだけじゃなくて、
朝に見る夜の名残の青白い月みたいに、
昨夜に見ていた夢のように、
春の麗らかさに包まれて忘れてしまう物事を
ビビッドなカラーが輝かしい
気持ちまで際立つ太陽に照らされて
空と山と海が各々に青かった日の夕暮れ
けれどもそれだけじゃなくて、
山の向こうに沈んで、
なおもちらつく太陽の
重々しい雲に閉ざされるようとする今日を
色褪せていくような
色づいていくような
冷たくなった空気に火照るような葉や人に
けれどもそれだけじゃなくて、
名残惜しかった夏を振り返るような、
いつかの帰り道を辿るような、
あなたがここにいてほしい
言葉にしたら
きっとそれだけになってしまうね
端的な言葉で
ありのままを伝えたいけれど
それはできなくて
それでももっと
街灯の下で誰かを待って息を吐いたこと
暖かな日差しにカーテンの影
バーベキューの後の残り火と見つけた一番星
立ち上るコーヒーの湯気
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今年も一年が終わりますね。
毎度思うことだけど、あっという間でびっくりです。
いつも読んでくださってありがとうございます。
『あなたがここにいてほしい』は、大学生の頃に読んだ中村航さんの小説です。妙な違和感を感じつつも、しっくりは来ていて、いい言葉だなと思います。
また来年。
みなさん、よいお年を!