英国解体のシナリオが強化された
エリザベス女王の訃報に接して、筆者の思いは連想ゲームふうに次々に動いています。
もしかするとそれをきっかけに英国の真の解体が始まるかも、とも考えたりしています。
英国の民主主義と立憲君主制はゆるぎないものです。
女王の死に続いたチャールズ新国王の議会演説を聞けばそれは明らかです。
民主主義大国の核心である英国議会では、リズ・トラス首相が就任演説をして新政権が船出しました。
それらの全ては英国の民主主義の堅牢を明示しています。
でもそれは英国を構成する4か国、即ちイングランド、スコットランド、ウエールズ、北アイルランドの結束を意味しません。
結束どころか、英連合王国内の絆は同国のEU(欧州連合)離脱、即ちBexitを境に軋みっぱなしです。
なぜならスコットランドが英国から独立してEU参加を模索し、北アイルランドもそれに倣おうとしています。
Brexitを主導したジョンソン前首相は、退陣したものの早くも復活を目指して画策を開始したとも見られています。
英国民の分断を糧に政治目標を達成し続けたトランプ主義者のジョンソン氏は、自らの栄達のためなら英国自体の解体さえ受け入れる類いの男に見えます。
筆者は2019年、
“英連合王国はもしかすると、Brexitを機に分裂解体へと向かい、ジョンソン首相は英連合王国を崩壊させた同国最後の総理大臣、として歴史に名を刻まれるかもしれない”
と書きました。
英国は未だにBrexit後の少しの混乱の中にあります。だが、一見すると前途は安泰のように見えます。
それでも筆者は、少しの希望的観測も込めて、英国解体の可能性はかつてなく高い、と考えています。
新国王のチャールズ3世は、日本の現天皇と同様にこれから彼の真価を国民に評価してもらう立場です。人間力が試されます。
彼が国民に受け入れられるかどうかは未知数です。皇太子時代のチャールズ3世は、必ずしも国民に愛されているとは言えませんでした。
英国に関しては、例えチャールズ国王が母女王のレガシーを受け継いでも、スコットランドと北アイルランドの不満が解消されない限り同国解体の可能性は消えません。
エリザベス女王治世時にあった懸念が、チャールズ3世時代にはたちまち消えて無くなると考えるのは理にかないません。
筆者は先刻、《希望的観測》と記したように個人的に英国解体を密かに願っています。
理由はこうです:
英連合王国が崩壊した暁には、独立したスコットランドと北アイルランドがEUに加盟する可能性が高い。2国の参加はEUの体制強化につながります。
世界の民主主義にとっては、EU外に去った英国の安定よりも、EUそのもののの結束と強化の方がはるかに重要です。
トランプ統治時代、アメリカは民主主義に逆行するような政策や外交や言動に終始しました。横暴なトランプ主義勢力に対抗できたのは、辛うじてEUだけでした。
EUはロシアと中国の圧力を押し返しながら、トランプ主義の暴政にも立ち向かいました。そうやってEUは、多くの問題を内包しながらも世界の民主主義の番人たり得ることを証明しました。
そのEUはBrexitによって弱体化しました。EUの削弱は、それ自体の存続や世界の民主主義にとって大きな負の要因です。
英連合王国が瓦解してスコットランドと北アイルランドEUに加盟すれば、EUはより強くなって中国とロシアに対抗し、将来生まれるかもしれない米トランプ主義政権をけん制する力であり続けることができます。
英国の解体は、ブレグジットとは逆にEUにとっても世界にとっても、大いに慶賀するべき未来です。