なかそね則
多くの幽霊案また企画倒れに終わったフィクションたち。オーソドックスな文体と尺を目指して形にすることにしました。
電話は世論調査のインタビューのように突然かかってきた。 「外線からお電話です」 交換手が短く言って回線が切り換った。 「もしもし。こちら連邦政府衛生研究所の疾病専門官(ディジーズ スペシャリスト)ですが、誰にも聴かれない場所で私と話しができますか」 女の声だった。ビジネスの話、とアメリカ人が割り切って電話をかけるときに特有の、事務的な率直さと生真面目さがにじみ出ている。 「連邦政府――衛生研究所?」 「そうです。連邦政府衛生研究所。N・I・O・H」女はまるでそれが身分証明
先日、サッカーのイスラエル人サポーターが、アムステルダムで襲われて20~30人がケガをしました。 事件は、例によって欧州各国政府の大げさとも取れるイスラエル擁護声明と、人々の強い反イスラエル感情を巻き込んでセンセーショナルに報道されました。 筆者はその様子をやや斜にかまえた天邪鬼な気分で監視してきました。 ガザではイスラエルの無差別攻撃で多くの子供と女性を含む4万5000人近くのパレスチナ人が虐殺され、約10万3000人が負傷し、1万人を超える人々が行方不明になっていま
口角泡飛ばし男のイーロン・マスク氏が、イタリアの移民政策にちゃちゃを入れて物議を醸しています。 イタリアのメローニ極右政権は、選挙公約を履行する形で、不法移民をアルバニアの抑留施設に送りこみました。 するとイタリアの司法は、それを違法として移民7人をイタリアに差し戻す判決を下しました。マスク氏はそのことを踏まえて、イタリアの裁判官は更迭されるべき、と声高に主張したのです。 遠いアメリカから、ただの金持ち様が「あんた何様のつもり?」の思い上がり行為に走ったのは、むろん米大
プラハの旧市街広場を中心とする歴史的市街地域には生活のにおいがほとんどありません。あたりには人があふれています。ふつうに歩くのが困難なほどの混雑です。 しかしその人の群れは、ほぼ100%が観光客なのです。 それは数値にも表れています。プラハの人口は130万人余り。そのうち旧市街広場を中心とする歴史的市街地にはたった8000人の市民しか住んでいません。 それがいかに不思議な数値であるかは、たとえばイタリアのベニスを例にとってみても明白です。 ベニスの人口は25万人です。
米大統領選はトランプ返り咲きとなりました。 ハリス大統領の誕生を期待しましたが、仕方がありません。 欧州、正確に言えばEU(欧州連合)の権力中枢も筆者と同じ気分だろうと思います。 しかし頭脳明晰で冷徹なEUの権力機構は、トランプ再選を想定しての戦略をしっかりと描いています。 心配は日本です。 先日の総選挙を経て生じた政治不安の中、人物も政策もブレがちな石破首相に、アメリカファースト主義のトランプ政権と対峙できるスキームはあるのでしょうか。 もしも高市政権が誕生して
イタリアのメローニ“極右”政権が発足から3年目に突入しました。 メローニ政権は極右から中道寄りにシフトし続け、表向きはいわば急進的な右派政権という具合になっています。 メローニ政権はEU(欧州連合)とも良好な関係にあります。ウクライナ戦争では反プーチンの立場を貫き、NATOとも、従ってアメリカとも今日現在は緊密に結びついています。 ファシスト党の流れを組む「イタリアの同胞」のメローニ党首は、いかにも極右らしく反移民と反EU(欧州連合)を旗印に活動を始めましたが、政権奪取
先の衆議院選挙で最も気になったのは、相も変わらない投票率の低さでした。 裏金問題という深刻な事案が争点の選挙でも、投票率は53.85%という寂しい数字でした。 日本の選挙の投票率が低いのは、国民が政治に関心を持たないからです。そして国民が政治に関心を持たないのは彼らが民主主義を理解していないからです。 自らの一票が真実、権力の行方やあり方を左右する、という厳然たる事実を多くの国民が意識すれば、投票率は必ず上がります。 結果、政権交代が起きます。 そして政権交代が起き
イタリアサッカーの勝ち組、あるいは常勝監督とも形容できるロベルト・マンチーニ氏が、サウジアラビア代表監督を首になりました。 マンチーニ監督は2021年、欧州選手権で53年ぶりにイタリアを優勝に導いて大喝采を浴びました。 ところが2023年、サウジアラビアから同国の代表監督就任を要請され、提示された年棒2500万ユーロ、およそ41億円に釣られてイタリア代表監督の職を投げ出しました。 W杯にも匹敵する欧州選手権を勝ち抜いた、マンチーニ監督への賞賛に満ちていたイタリアの世論は
ギリシャ・クレタ島からイタリアに帰った翌日、つまり10月12日にはフランスとの国境の街・アオスタを目指して車を走らせました。 仕事兼遊びの道行。遊びの要素がある分だけ、ギリシャで溜まった“休暇疲れ”はほとんど感じず、真夏のような気候のクレタ島からふいに寒いアルプスの街に入る感覚が・も新鮮でした・だった。 アオスタは、イタリアの5つの特別自治州のうちの一つ、ヴァッレ・ダオスタ州の首都です。 イタリアには20の州があり、そのうちの5つは特別自治州です。ヴァッレ・ダオスタ の
韓江さん のノーベル文学賞受賞はすばらしい出来事です。筆者はノーベル賞をもらった作家の作品をあわてて読むことはほとんどありませんが、機会があれば手に取ってみようと思います。カズオ・イシグロのときのように。そして、カズオ・イシグロ受賞の際も言いましたが、なぜ村上春樹ではなく韓江 なのか、とノーベル財団に問いたい。あらゆる文学賞は主観的なものです。従ってノーベル財団の選考者が誰を選ぼうと構いません。筆者は自分の主観で選ぶ優れた作家の作品を優先して読むだけです。そのことについては既
イタリア・ベルガモ国際空港発のRyanair便で、ギリシャ・クレタ島への旅を計画しました。 ベルガモ空港はイタリア随一のLCC(格安航空)のハブ空港です。格安大手のRyanairが、彼らの専用空港かと見まがうほど多くの旅客機を飛ばしています。 出発の日、そのRyanairの到着便一機の車輪が破裂して滑走路が破損。空港が全面閉鎖になりました。朝早い時間の事故だったため大混乱。 129便がキャンセルされ、2万1千人が足止めを食うことになりました。 ブリュッセル経由でクレタ
10月初め、予定より一日遅れてギリシャ、クレタ島に着きました。 イタリア、ベルガモ空港でRyanAir機の車輪が破裂。滑走路が破損して空港が全面閉鎖になりました。 129便がキャンセルされ、2万1千人が足どめを食う大事故に巻きこまれました。 ブリュッセル経由でクレタ島ハニアに向かう筆者らの格安航空便は、空港で10時間近く待たされたあげくにあえなくキャンセル。 翌日の直行便が取れたのはほとんど奇跡でした。 クレタ島は10月3日の今日も夏真っ盛りです。さすがに最高気温は
9月末、プラハを訪ねました。そこを訪ねたいと強く思いつつ、仕事でもプライベートでも何かと障りがあって機会がありませんでした。ようやく来たという気分でした。 予想をはるかに上回るフォトジェニックな街並みに三嘆しきり。 世界にはフォトジェニックな街や自然や史跡が多くあります。だがプラハほど写真に撮りたくなる風景が街全体に詰まっている場所はそうたくさんはありません。 ベニスとローマが辛うじて対抗できるかも、と考えてみましたが怪しいところです。 街全体が建築博物館と呼ばれてい
自民党総裁選は石破さんの勝利で終わった。順当無難な結果です。 筆者は9人の候補をドングリの背比べと見ました。いずれもドングリならファシズム気質の高市さんの目もあっていいとさえ思ったりしました。 高市さん選出なら、少なくとも日本の諸悪の根源「男尊女卑」精神に一撃が加えられるからです。それは、無いよりはあったほうが確実に日本のためになるイベントです。 筆者は石破さんには多くを期待しません。彼の口癖である公正、誠実、且つ謙虚で丁寧な政治なるものが、薄っぺらなキャッチコピーに過
FB友のお1人から「高市早苗」候補には絶対に首相になってほしくない、という強い怒りのメッセージが届きました。似たような趣旨のコメントはほかにも多い。 高市早苗候補だけは決して日本のトップにしてはならない、とつい最近まで筆者も考えそこかしこに書いてもきました。 今もそうですが、それでも総裁候補の顔ぶれを見ているうちに、毒を持って毒を制す、のような気分になっています。高市という猛毒をもって日本の男社会という毒に楔を打ち込む、という印象です。 ちなみに筆者は上川さんに期待し、
インターネットの爆発的な普及以降、情報を巡る環境はある意味でインターネット以前の有様に戻るという皮肉が起きています。 オンラインで無償の情報がいくらでも入手できる今は、人々は有料の記事や文章には目もくれません。 日本人がソフトウエアの価値を知らなかった頃は、メディア人でさえ情報をタダだと無意識に思い込んでいました。情報で食べているNHKでさえそうでした。 他は推して知るべしです 例えばフリーランスのディレクターである筆者は、自らの意思とコストで情報を集め、勉強し、ロケハ