琉球新報 落ち穂「ごはん食べてる?」#2
食べる・飲み込むという行為は、物事を飲み込むことだと心理学者が言っていた。優秀な営業マンはYESを引き出すためにお茶を飲みながら商談する。大きな契約や取引で飲み物が出てくるのもそういうことだろう。
飲み込めない事実は、物理的に飲んで飲み込む、食べて飲み込む。私たち人間は意外と単純で行動に心が引っ張られるということがわかる。カロリーや摂取量を気にしつつぜひ実践してみてほしい。
そして、沖縄には同じく高度な食べ物スキルを持つ人たちがいる。私はそれを、かめてる(食べてる)?スキルと呼んでいる。
久しぶりに会う人には「元気にしている?いろいろ順調?」と聞くのが一般的だと思っていた。
しかし、ここでは違う。「元気ね?ご飯食べてる?」がスタンダードだ。挨拶の次に食事の心配をしてくれる。先生、先輩、友達、知り合いと属性問わず聞いてくる。
今となっては当たり前だが冷静に考えてみれば不思議だ。沖縄に住むまで親にしか言われなかったような言葉だ。
すごくあたたかく感じる。嫌な気はまったくしない。
むしろ「とても自分の心配をしてくれているんだ。」とほっこりする。そして、順調?と聞かれるよりはるかに気にかけてくれていると感じる。食事をしなければ人は生きていけないのだから、食を気にかけるというのは究極のウムイだ。
考えてみれば、食べ物をあげるという行為も圧倒的に多いと感じる。
稽古にいけば動けなくなるくらいご飯をいただく。
舞台の時はチケット代以上の差し入れを持ってくる。
ご近所さんが3日に1度ご飯を持ってくる。
すれ違いざまに持っている食べ物すべてを手渡してくれる人もいる。
気になる相手の胃袋をつかむというのはよく聞く話だが、ここでは誰に対しても胃袋を満し、心配をするのだ。
なるほど私は、この伝統を育んできた人たちの心が好きで、そんな人たちがつないできた芸能だから好きなんだと腑に落ちた。
伝統芸能や芸術文化はどこまで行っても人ありきだ。生活がデジタル化する中でここだけは人を感じられる場所である。だから沖縄の伝統芸能が好きだ。
琉球新報 落ち穂 髙井賢太郎「ごはん食べてる?」 より