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刑務所と医療

皆さんは、体調が悪くなった場合どうするだろうか?

①市販薬を買って対処する
②病院へ行って診察してもらう
③気合で治す


①:時間が掛からないが、費用が高く治りにくい。
②:時間は掛かるが、費用が低く抑えられ早く治る。
③:いい意味で若い。ただ、後々痛い目に遭う恐れがある。

そんな今日は「医療」についてお話していく。

医療費は「無料」です

今までのnoteを読んでいただいた方なら、もうお分かりだろう。
刑務所で暮らすのに「日本円」は全く必要ない。
食事・入浴・衣服など、すべてが支給されるのだ。
そして、医療についても同様に「無料」である。

入所時に身体測定・健康診断が行われる

拘置所から移送されると、まずは身体のチェックが行われる。
身長・体重・医師の問診などがある。
持病はないか、現在体調が悪くないかチェックされた。
刺青タトゥーがある者は、部位や柄も確認される。

最近は、食物アレルギーが重要視されている。
特に「そばアレルギー」など、食べたら重症になるような場合、
この健康診断で医師の判断を仰いで、口にしない様に整われる。
刑務所の中では「禁食」と表していた。
「そば禁」「大豆禁」「えび・かに禁」などといった感じだ。
更に、信仰のため食べれない受刑者もいる。
「豚禁」「肉禁」なども実際いるようだ。

拘置所で処方されていた薬は、そのまま投薬が続く

拘置所で複数の薬が処方されていた場合、刑務所でもそれを引き継ぐ。
急に減薬したり中止したりすると、受刑者の体調や感情が不安定に
なってしまうからだ。
私が知る中で、最も多く投薬を受けていた人は、
一回に5錠の違った薬を服薬していた。ちょっと変わった方だったが。。

基本的には受刑者の言いなり

医師の診察は「問診」である。
つまり、科学的にその病気を調べるのではない。
あくまでも受刑者の「話」を聞くだけなのだ。

肩が痛い、腰が痛い・・・湿布
眠れない     ・・・睡眠導入剤
便秘       ・・・整腸薬・下剤

この辺りは、少し強めに訴えれば、大体すぐ処方される。
雑居にいると、いびきやストレスで眠れなくなることが多いので、
睡眠薬系は服薬している者が多かった。
特に、拘置所で精神安定剤や睡眠剤など、薬に頼った生活をしている
受刑者は、薬がないと不安でたまらなくなる。
なので、医師から減薬の話が出ても頑なに断っていた。
それらも、勿論「無料」である。

薬は「自己保管薬」と「職員管理薬」に分かれている

受刑者は、ルールを守れなかったので服役している。
そんな人たちに、一歩間違えれば命に関わるような薬を
預けられるはずがない。
その為、毎食後や就寝前になると、服薬対象の受刑者に対して
職員が一人ひとり順番に回って投薬していくのだ。
食後や就寝前など、一人一回分が小さな透明の小袋に入っている。
イメージとしては、給食に出た1人用のふりかけぐらいの大きさだ。
これに、対象者の名前・称呼番号・投薬のタイミング(夕食後など)が
印刷されているのだ。

職員が時間になったら巡回してくる。
毎食後来てもらうので、気が利く受刑者は水を湯呑に入れて待機しておく。
職員を待たせないようにするためである。
このような小さな積み重ねが、職員に気に入られる方法でもある。

職員から称呼番号か名前を呼ばれる。
「〇〇さん、投薬」

そうしたら、職員から小袋を渡される。
ここで焦って受け取ってはいけない。
必ず間違っていない確認するのだ。
自分の称呼番号と名前が間違っていないか確認して、
「〇〇番、〇〇(名前)です。確認しました。」
と、声に出して受け取る。

そしたら、すぐに小袋を開けてまずは手に載せる。
そして、口の中に入れて飲むのだが、ここでも焦ってはいけない。
まずやることがある。
【口を開け、舌の上に薬を載せる】
これは、口の中に薬を入れましたよ、の合図だ。

そしたら、職員が薬を確認したのち、
「よしっ!」
というので、その掛け声のあとに湯呑を口に付けて飲み干す。

飲み終わったら、ここでもチェックが入る。
【口を開け、舌を先ほどと同じように出す】
そして、職員がまたこう宣言する。
「よしっ!」

これで投薬の一連の流れが終了する。

週に1度、医療事の相談をする機会がある

私のいた施設では、医療全般については「医務」と表していた。
そして、週に1度「医務」の受付をしてもらえた。
工場担当の職員が「医務」のある人を確認して回るのだ。
どんな内容でも受付しないといけない。
・頭が痛い
・風邪を引いた
・便秘が続いている
・肩が痛い
受刑者の数だけ「医務」が発生すると言っても過言ではない。
まあ、大体同じような内容が多いようだ。

ただ、全員を医師が診察するわけにはいかない。
その為、准看護師の資格を持った医務担当の職員が常駐していた。
この職員が受刑者からヒアリングをして医師に報告する。
そして、必要な処置を行う。
詳しい医療行為のルールは知らない。
ただ、私がいた施設では、この医務担当の職員が優秀だった。
大概のことは知識として持ち合わせていたので、
些細な身体の不安や悩み事はサクッと解決してくれた。

しかし、中にはヘビーな症状を訴える者もいる。
そうすると、医師が診察を行う。
精神的に不安定な人は、ちょくちょく医師の診察を受けていた。

重度の病状だと、病院に行く「らしい」

基本的に受刑者は塀の外に出られない。
しかし、刑務所の医療行為には限度がある。
その為、手に負えない病気や病状が発生した場合、一般の病院に
行くこともできた。
ただ、私が知る限り行った人を知らない。

入院施設も併設されている

私のいた施設では「病棟」と呼んでいた。
骨を折ったり、寝ておかないといけないような病気になると、
ここに収容される、と聞いたことがある。
しかし、残念ながら他の建物から隔離されており、またその周辺で
作業などしたことがなかったので詳細は不明だ。

夜間の病棟巡回は・・・

定年前の刑務官がこんな話をしてくれた。

『病棟ってあるんだが、あそこは夜間の巡回が怖いんだ。
 変な声が聞こえてきたり、急に物音がしたり。
 俺はドアがゆっくりと開いたのを見ちまってな。
 え?なんでそんなことが起こるかって?
 そりゃ死んだ人間が、まだこの世で彷徨っているんだろ』

この話が本当なら、病棟で死んでいく受刑者もいる、ということだろう。
刑務所の中で死ぬことを「獄死」という。
昨日までいた人が、急にいなくなる、ということは日常茶飯事だ。
それが、懲罰なのか釈放なのか移送なのか、全く分からない。
なので、急な体調不良で・・・。あり得なくはないだろう。

「自由」と引き換えに、「命」を手に入れる

塀の中に自由はない。
しかし、塀の中は安全である。

一般社会なら、お金を払って医療を受ける。
健康保険料を納めて、医療費を払って、薬代を払う。
それがすべて「無料」なのだ。刑の満了後に請求されることもない。

まさに、このおかげで助かった受刑者がいた。

逮捕されたとき、住む家もなくその日暮らしをしていたそうだ。
まともに働くことをせず、盗みが生業だったらしい。
金がなくなっては盗みに入り、食べて飲んで寝る。
その繰り返しだったそうだ。
偏った食生活で、結構太っていたらしい。

しかし、逮捕される数日前から体調が悪かったようで、
いつもなら簡単にしていた盗みに失敗してしまった。
そして現行犯逮捕となり留置場に収容されたのだ。

余罪がたくさんあったので、まずは逮捕容疑で送検されて、
「さあこれから留置場暮らしが長くなるなあ」
と、考えたその時、急に胸が苦しくなり、
警察官に言葉を発する前に倒れたそうだ。

その後、気づいたら警察病院で寝ていたらしい。
そして言われた内容が、
「血圧が220超えていた。いつ死んでもおかしくなかった」
とのことだった。

その受刑者は、ずっと血圧と心臓の薬を服薬していた。
そして、規則正しい食生活と整った住生活により、
以前太っていたなんて感じられない程、すっきりした体格だった。
服薬はしているものの、血圧もかなり改善されたらしい。

「自由」と引き換えに「命」を手に入れたと言っても過言ではない。

刑務所の医療費がどのくらいになるのか?

現在、日本は高齢化が進んでいる。
それと同様に、刑務所も高齢化が進んでいる。
経験上、年齢が上がるほど服薬する受刑者が多くなっていた。

受刑者は「更生・矯正」するために、また「罰」を受けるために
刑務所へと収容される。
受刑者の健康管理の為、やむを得ず投薬するのは仕方のないことだろう。

しかし、令和の世の中、真っ当に生活しているのにも関わらず、
生活に困窮する家庭、国民が数多く存在している。
その人たちは、医療費を払うことが出来ないので我慢をして、
我慢に我慢を重ねて暮らして、一生懸命に働いている。
中には、相当悪化してどうしようもなくなり初めて受診するのだが、
その際には手に負えない状態になっている人もいるそうだ。

同じ日本に生まれた命ではあるが、善良な市民と罪を犯した受刑者。
税金の使い道は、政治が決めることだとは思うが・・・

明るい未来を語り合えるような、そんな日本国になってほしい。






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