彼に貸したお金が「高い勉強代」になるまでの話⑩「人間不信の始まり」
情緒不安定な状態が続くと、当然、仕事への集中力も下がってくる。
幸い、私がやっている事務仕事はルーティンワークかつ、自分のペースで進められる仕事でもあり、然程影響は出なかったが、職場の人たちとの関わりが億劫になり始めていた。
だが、お世話になっている人が多い中、関わらないわけにもいかない。
たまたま、他部署のヘルプに行ったことがきっかけで、ヘルプ期間終了時に課長から飲みの誘いがあり、久々に仕事付き合いの飲み会を満喫することができた。真夏のビールは最高である。
この課長の他にも、入社時からお世話になっていた男性上司いた。
既婚者であり、1児の父親だ。仕事の段取りが上手く、面倒見の良いことから、職場内でも頼られることの多い人だった。
仕事の愚痴や、改善案などよく話し合う仲でもあったのだが、課長との飲み会に行った話が発端となり、男性上司から告白を受ける。
男性上司曰く、「ものすごく嫉妬をした。気持ちを抑えられなくなった。」だそうだ。
大袈裟な表現だが、まるで犯行理由のように聞こえる。私はこの言葉を受けて危機を察知した。
言い訳になるかもしれないが、私は職場関わる異性は仕事上での関係であり、恋愛対象として見ることはない。
だが、相手はそうだとは限らない。人との考え方の違いなど、わかっていたつもりだった。
既婚者であるこの男性上司は、私にずっと恋愛感情を持っていたことを打ち明け、それが私にとっては大きなショックだった。そして、既に離婚もしているとのことだった。情報処理をするのが大変だった。
冷静に対処しようと、私はまず、男性上司の気持ちをすべて聞き、そのあとにはっきりとお断りした。
しかし、相手も引き下がらない。今度は、「これから自分の家に来てほしい」と言い始めた。
数打ちゃ当たるではないのだ。順序がはちゃめちゃである。
相手も冷静でない状態なのは見受けられたが、男性上司が言葉を続けるほど、私の中で相手に対する嫌悪感が増していく。
感謝、尊敬の気持ちはどこへやら、話がわからない相手は攻撃対象として私の中で変換されていった。
あまりにも諦めが悪く、「前みたいに仲良くしていたい」「冷たくしないでほしい」等とごねる相手に対し、裏切られた気持ちになった。これまで見えなかった一面が見えただけなのに。
その後も、勤務中に個別チャットが送られてきたり、何かと仕事の理由をつけて接点を持とうとしたり、帰りに待ち伏せ、素通りすると後ろから大声で名前を呼ばれたりと、男性上司からの様々なアプローチ?が続いた。
男性上司はとにかく、私に「許してほしい」という気持ちだったそうだ。
私の中で相手に対する答えは決まっているし、伝えてもいる。もう放っておいてほしい。
このまま何を言われたとしても、相手に対する評価が下がるだけだ。
ましてや、許す許さない以前に、相手の告白に対して、怒っているわけではない。
自分の気持ちの安定のために、私に反応を求める行為に腹が立っていた。良い大人のくせに。
「仕事の話は担当社員を通してください。話しかけてほしくないの、わかりませんか?」
残酷だが、再度、はっきり伝えた。
相手は私より遥かに年上だったが、ぐずっていた。
私の情緒は更に不安定になっていく。
(なぜ、このような面倒な男ばかりなんだ。)
そして、それとなく、この件を彼に伝えてしまった。
彼なら、なんと言うだろうか、少しは心配してくれるだろうか。期待してしまった。
だが、案の定、相手にされることはなかった。
伝えたのは自分だが、期待通りの反応でないことに苛立つ。
そこでまた、こんなにお金を貸したのに。と、「貸した側」の立場を利用しようとする。
まさに負のループ。自傷行為と何ら変わりないじゃないか。
そして、更に気づく。
彼に対する私の行動や言動も、男性上司が私にしたことと同じじゃないかと思った。
因果応報だ。
この無意識の自滅行為に、異性に対しての信用のみならず、自分への信用もできなくなっていた。
当時の私生活は悲惨だった。
お金が困窮しているのにも関わらず、コンビニ食が増える。
毎日のお弁当作りが趣味でもあったが、自炊をまったくしなくなっていた。
急激に食欲が低下し、たばこと水だけで過ごす日もあり、体重の増減が激しくなる。
もちろん部屋の中は乱雑に物が放置され、汚れたままだ。
読書することも、テレビを見ることもない。
毎日、何本もYouTubeの3択占い動画を見て、気持ちを安定させる。
SNSを開けば、推し活や友達同士の飲み会の様子が書かれており、より自分が卑屈になっていく。
アプリを始めた頃の、プロフィールに何をアピールポイントとして記載しようかと、わくわくしながら悩む自分ではなくなっていた。
彼とのつながりと占い
本当にその2つしかない生活になってしまっていた。
秋になっても、彼がこちらに戻る連絡も6万円の話もない。
喧嘩をすれば、表面的な仲直り。相変わらずこの繰り返しだ。
聞いてる側の方がうんざりするのは間違いない。
私は、声が聞きたいという理由をこじつけて、彼の誕生日に電話をかけることにした。
いきなりかけても出ないことはわかっていたので、ダメ元だ。
電話は出ない。「LINEじゃだめなの?」と聞かれる。
これまでの経験で情緒がおかしくなった私は、どうせ女がいるのだと思い込んでいた。
彼は女の家にいる、絶対にそうだ。
その妄想染みた思い込みを大前提とした関わり方になっていた。
現実と妄想の区別、判断なんかとっくにできていない。
感情のまま、彼に送る。
「もうお金と恋愛感情を割り切って考えたいから、本当のことを教えてほしい。
彼女か、お嫁さんがいるんじゃないの?こんなの詐欺だと思ってる。」
「いないけど。本当の事って何?」
「目まぐるしい状況の中で巻き返そうと頑張ってるの。そんなに嫌味聞いてるほど暇じゃない。詐欺だったら携帯も変えてLINEもブロックしてる。他見てるほど、そんな余裕ない。」
彼の怒りを感じた。
彼の言っている、詐欺だったら逃げている、というのも納得はいく。
だが、相変わらず抽象的だ。知りたいことなんて、一つも判明していない。
不信感が増すような事を、私自ら巻き起こしているのも考えられる。
頭で考えれば考えるほど、何を信じていいのかがわからなくなってくる。
私は、全てが嫌になり、彼とのこれまでをぶち壊してもいいと思った。
⑪に続きます。
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