「大英自然史博物館展」感想

 2017年に上野の国立科学博物館で開催されていた、大英自然史博物館展の記録です。

 音声ガイドは山田孝之。
 嬉々として借りる。良い声♪

 自然史というより「博物学」という言葉を強く思い出させる展示だった。
 細かくジャンル分けされる前の科学だから、現在なら地質学・生物学・化学などの研究対象になるようなものが、ごった煮状態になっている。
 呪われた宝石、なんてのもあって、珍しいものならとりあえず全部集めて保存する、という考えだったのかもしれない。

 集団で交尾したまま窒息死した三葉虫の化石は、何だかシュール。
 ハチドリの剥製は、可哀想だけど青く光る首が美しかった。

 絶滅した動物(モア、魚竜、始祖鳥、オオナマケモノ、ドードー等)の復元CG映像がどれも可愛い!
 みんな標本から立ち上がって、生きていた頃の体を取り戻し、人のいない博物館の中で遊ぶ。

 特に始祖鳥は今回一番の呼び物だけあってなかなか凝っていた。
 化石から黒い羽根が舞い上がり、骨の周りを覆い、完成した姿で重たげに飛び立つ。
 くちばし(に似た形の口)に並んだ鋭い歯で、昆虫をつかまえて食べる。

 始祖鳥は飛べたのか、飛べなかったのか?
 始祖鳥は鳥類なのか、恐竜なのか?
 まだ答えは出ていない。
(展示パネルの文章より引用)

 大陸移動の証拠となったグロッソプテリスという植物の話が興味深かった。
 世界のあちこち(南アメリカ・アフリカ・オーストラリア等)にあるのは神がこの植物を作った証拠であり、進化論はおかしい。
 →同じ植物があったということは地続きだったのだ。
 →南極にもグロッソプテリスの化石があったので大陸移動説が有力に。

 今聞けば「ふーん」という話だけれど、
「海で遠く隔てられている土地が昔はつながっていた」
 という考え方、思い付くのも受け入れるのもけっこう大変だったのではなかろうか。

 ウォルター・ロスチャイルドの、お父さんがプレゼントしてくれた博物館や、シマウマで仕立てた馬車に度肝を抜かれ(ロスチャイルド家には常軌を逸したエピソードが多くて見聞きするたび驚く)

 輝安鉱の大きさと美しさに興奮! 無数のシャープなラインと輝き。まるで墨汁が結晶化したような深い色合い。
 
 プラチナコガネはまさにプラチナ風の外見で、透明に見えるほど。CDと同じ原理で光っているそう。

 女性の学者が多く紹介されていたのも良かった。
 魚竜の発見者メアリー・アニングの肖像画を見て、化石ガールかと思ったらそんな生易しいものではなく、もっとハードボイルドで「化石ハンター」だった。
 化石を見つけて売る仕事。趣味ではなく「食っていくため」だったのだろう。
 
 ピルトダウン人という「贋原人」の話も面白かった!
 ヒトと類人猿をつなぐ存在と信じられていたが、後に現代人とオランウータンの骨の組み合わせだと判明。
 発見当時の人々の、
「人間は大昔から頭脳が発達していたはずだ」
 という先入観によく合致していたからこそ、だまされてしまったらしい。

 どの展示も熱心に見て、山田孝之の解説もメモを取りながら真剣に聞いていたら、あっという間に閉館時刻。3時間半くらいいたのかな。
 夢中になり過ぎて時を忘れてしまった。

 音声ガイド、展示をぼんやり見ているだけでは気付かないことを教えてくれたりしたので、借りて良かった。
 クイズは3問中1問しか当たらなかった……

 ゲーテも博物学的な関心が強かった。抽象化を嫌い、自然の持つ形態をそのまま観察することで物を考えたという(なんて書くとゲーテに詳しいみたいだが、池内紀の「ゲーテさんこんばんは」というエッセイ集を読んだことがあるだけ)

 今回の展示を見て、その感覚が少し理解出来た気がした。
 近代以降の科学が切り捨ててきた、いかがわしく豊かな精神に思いを馳せた。