映画「小さいおうち」感想
戦争が激化する少し前の東京が舞台。中流家庭で起きた恋愛事件。奥様の不倫を知ってしまった女中・タキが、おばあさんになってから当時を振り返る、という設定。
不倫相手が綾野剛なら、とちょっと思ったけど、吉岡秀隆は声が可愛いのね。子供みたいに頼りなくて純真な感じがして、戦局と仕事の話しかしない男たちにうんざりしている奥様がよろめく相手として「これはこれで良いかも」と思った。
妻夫木聡が出てくる現代パートがイマイチ、というコメントをいくつか見たけど、
「昭和10年代は暗い時代」
と思い込んでいる現代人と、
「昭和10年代に明るい思い出を持っている」
その時代を実際に生きていた人々の感覚を対比させるのがこの映画の肝なのだから、少々説明的でも必要な部分だし、そう悪くなかったと思う。
何故当時の人々は世相を明るく感じていたのか。マスメディア(新聞やラジオ)がだましていたからです。
世間の人々の「世界観」を形作っているのは結局のところマスメディアで、会社が倒産したり、空襲で家を焼かれたりして初めて「本当の世界」を知ることになる。
それは今も昔も同じだよと、昭和6年生まれの山田洋次監督は伝えたかったのだと感じた。
おばあさんになったタキ(倍賞千恵子)が、親戚の男の子である健史(妻夫木聡)にいそいそとトンカツを作ってあげる様子が微笑ましい。
私がおばあさんになったら、妻夫木聡や綾野剛が毎日家に遊びに来てくれたら良いなと思った。うちの伯母はよく、
「毒蝮三太夫や永六輔がしょっちゅう家に来る」
と言っていたから(※認知症の妄想)不可能なことではない!
それにしても、年老いた倍賞千恵子を見るのは、腰の曲がった自分の母親の背中をさするのと同じくらい切ないことですね。
子供の頃からお馴染みの役者さんなので(「男はつらいよ」ほぼ全作見てる)
都電荒川線沿線で育った母は、
「あの人のお父さんは、都電の運転士なんだよ!」
と、いつも自分の手柄のように自慢するのだった。
タキは恋愛事件の中で一つの行動を起こし、罪を抱えて生きることになる。
タキ(若い頃を演じるのは黒木華)が恋していたのは、板倉(吉岡秀隆)だったのか、奥様(松たか子)だったのか……
おそらくタキ本人も分からなかったのではないか。
それらを全部含めたあの家の世界を愛していて、壊したくなかったのだと。
そして戦争は容赦なく、何もかもを壊してしまった。
甘い、ノスタルジックな物語のようでいて、現代への警告とも受け取れる、興味深い作品でした。深刻な話にも笑いを入れたくなるところとか、私、山田洋次にけっこう影響受けてるのかも、なんてことも思ったり。色んな意味でノスタルジー。