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熊本から長野へ「縄活」に行く。
仕事がどうの、何かふっきらないと、どこにも行けないではないか。
目指すは長野県 富士見町の井戸尻考古館。去年は岡谷市の尖り石考古館で時間をかけすぎ、(長野は広いし、都合のいい時間にバスはやってこない。当然!) タイムアウトで涙を飲んだけど執念です。
京都を朝一の新幹線、名古屋から特急信濃で塩尻、岡谷、信濃境へ!
無人の信濃境駅から、長い長い下り坂をキャリーケースをゴロゴロ言わせながら、井戸尻考古館へ。平日で嬉しいことに考古館の縄文土器、土偶たちは僕が独り占め。憧れの縄文君たちがガラス越しにずらりと並び、まるで夢のよう。
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「始祖女神像」が目の前に両手を広げ「ツーン」としている。
その前にはハート形の「蛇を戴く土偶 女史」が!「フーン」としている。彼女の後ろに回ると頭の上に蛇のとぐろ紋様!何と自由でおおらかな縄文の神々よ!
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展示された土器も見事な仕上がりを見せる。器の均一な厚さも、縄の文様のリズムも芸術品。磨き上げられ、鈍い光を反射し、土の質感も深い。やはり、この集落にも土偶・土器作り専門の職人集団が居たに違いないと強く思う。
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基本的な技術が伝承されないと、いきなりこうは作れまい。わずか30年とも言われる縄文人の命の短さのなかで、彼らの心の中には自然を敬う心、神を信じ、命の喜びが土器の表現に凝縮されていると感じる。
僕が居たのはわずか1時間ちょっと。このまま、資料館の床の上で一晩過ごしたいと真剣に思うが、それでは危険人物。二度と来れなくなる。
嗚呼、もう次の列車の時間が。
見事な展示物の手間にあるのが手の平サイズの顔やヒトガタ。これら一個、一個にも命があると感じるのだ。想像するに専門の職人集団の作品を横目に、こっそり余った土を手の平でこね、平らにして、自分の想う顔を誰かがヘラで刻んだのではないだろうか?見よう見まねで人の形を練り上げたのだろうか。
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笑い顔、おすまし顔、悲しい顔、素朴な人の形。お守り。自分の手の平に乗っかる彼らの想い。
土葬の時間、そっと死にゆく魂のすきまに、震える指でそっと埋葬される、小さな想い。君たちは何万年の時空を超え、僕の魂を救いにきてくれたのか。子供たちのお守、安産のお守りで身につけたのか。
残念ながら、僕の手の平を開いて閉じて、また開いても何も出てこない。
「自分だけは助けて下さい」という願いの言葉は生まれても、この世の平和を願う言葉は自分から、湧いてこない。
時間に急かされ、汗ばんだ手のひらを見ながら、僕は富士見町、井戸尻縄文世界を後にした。
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