叶わない夢
旅の途中気持ちのいいカフェに入った。ふと休職中不安から逃れるために朦朧とアパートの近所を歩いていたことを思い出す。あの時「会社辞めて今までの貯金で妹と一緒にここらへんに雑貨屋か何か開いて一緒に働けば妹も社会復帰できるかもしれない」と脳裏によぎったことが思い出された。
「ねぇ、やっぱりカフェにしよう。ヨーロッパ風おしゃれカフェ。あなたコーヒーショップでアルバイトしてたんだからコーヒーの作り方知ってるでしょ。コーヒーマシーン買おう。どっちか衛生管理者免許とってさ。いや免許ならお母さん持ってるよね。気合い入れて手伝ってくれるよ。お父さんもコンビニ開くって行ってたくらいだからお金出してくれるかも。うまくいかなかったらすぐ畳めばいいよ。それくらいだから気楽にやろう。私はお店のインテリアや音楽考えるね。メニュー?えー、クッキーでも焼く??材料費かからないようにしたいな。それは適当でいいよ。市販品でも可愛い皿に乗せればオッケーでしょ。カタチが大事っしょ。」ばぁっと思い浮かんで心の中で妹に話していた。
妹が遺したノートにはなぜか飲食店開店のための資金運用のメモが残っていた。彼女が飲食店を開くにはいくら必要かを急に話し出したことを覚えている。当時はお金もないのになぜそんなことを言い出すのか分からなかった。自分でお店を開けば先輩や上司から嫌がらせなど受けずやな思いをしないで済むと思っていたんだろうか。そしてもう彼女の真意を確かめる術はない。
妹が引きこもっていることについて、実は父親は会社を引退し、コンビニを開くことを考えていたらしい。彼女の働く場を作るために。本当は私たち家族は妹のために何かしようという気持ちを持っていた。でもそれは叶わなかった。私はパワハラに遭ってなお働き続けていたし、父親は妹が死んだ後も休まず会社に通っている。何より妹はこの世にいない。
そして私がこのカフェにたどり着いたのも、彼女がお店でも開けたらと考えていたことを知ったのも、全て妹が死んだ後の出来事だ。手元にある事実をどんなに並び替えても私たち姉妹がおしゃれなカフェをオープンさせることはあり得ない。この話は妹と語り合われたこともなければもう妹は死んでしまってこの世にいなくて絶対叶いっこないのに、なぜ私の心の中では妹も含めた私たち家族が和気あいあいとカフェオープンに向けて楽しく話し合っている妄想が止まらないのはなぜだろう。涙が止まらない。
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