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アインシュタインの論文(1916年)を読んでみよう(その1)

前回はいってみれば その0 ですね。論文、じっくり読み進めてきましょう。

ドイツ物理学界の貴公子マックス・プランクが1900年に提唱した、いわゆるプランク分布についての言及から開幕です。この論文では出てこないのですが、プランクはこんな公式を導出していました。


$${\rho(\nu, T) = \frac{8 \pi h \nu^3}{c^3} \cdot \frac{1}{e^{\frac{h \nu}{k_B T}} - 1}}$$


いわゆるプランク分布の公式。これに近いものはすでにほかの物理学者によって提唱されていました。彼(プランク)はとある閃きをもとに、それにわずかに手を入れて、観測データときれいに合うような公式を作り上げたのです。

このプランク分布公式が成り立つための唯一の条件は、$${ΔE=nhν}$$ の関係が成り立つことでした。

光(というか電磁気)のエネルギーは $${hν}$$ を最小単位とするということです。

どうしてこういう最小単位が生ずるのか?彼自身はその理由を、電磁波を発する物体に「振動子」とでも呼ぶべき機構があって、それはたぶん電子やイオンの組み合わせで働いていて、それのせいで発する電磁波の強さがとびとびになる(= $${hν}$$ がとびとびの最小単位となる)と推理しました。

そしてさらに、この「振動子」なる仮想的存在の平均エネルギー $${\bar{E}}$$ について、

$${\bar{E} = \frac{8 \pi \nu^2}{c^3} \rho}$$

($${c}$$ は光速、$${ρ}$$ は放射密度、$${ν}$$ は振動数)

…と算出しました。

その業績をアインシュタインアルベルトくんはこの論文冒頭で高く賞賛しつつも「振動子というアイディアがそもそも非常に機械的イメージで、量子論となじまない」という意の批判をします。

そして、ボーアの研究についてちらっと触れながら、原子における光(というか電磁波)の吸収と放射という現象をこそ土台に置くべきであり、振動子のアイディアは捨て去っていいのではないかと切り出します。

そして、二つの係数を彼は提示してきます。

ひとつはA係数。$${ΔE}$$ はエネルギーの変化率です。


$${\Delta_1 E = -A E \tau}$$


振動子より放たれるエネルギー $${E}$$ が、ごく短い時間 $${τ}$$ のあいだにどんな風に減衰するのか、微分方程式で表わすための足掛かりとなる式です、

Aという係数を置いていますね。これを置くことで…


$${E(t) = E_0 e^{-At}}$$


…と表せてしまうのですいいですねかっこいいですね微分方程式の基本ですね。アルくんの論文にはこの方程式はでてこないので私のほうで作ってしまいました説明用に。

もうひとつの係数Bについて見ていきましょう。

振動子(念押ししますがアルくんはこういうメカニズムには否定的です。否定のためにわざと振動子を使って計算をしています)にエネルギーが供給されている場合の数式を作って、その係数をBと名付けて…


$${\langle \Delta_2 E \rangle = -B \rho \tau}$$


なんか変な括弧が使われています。期待値や平均値を表すとき使う括弧です。$${ρ}$$ とあるのは電場つまりエネルギーを振動子に供給する「場」の放射密度です。これに時間 $${τ}$$ を掛けて、係数(ここではBという文字を使っています)を掛けると…


$${\frac{dE}{dt} = -B \rho(t)}$$


…という式になります。エネルギーの変化が放射密度にどのように依存するかを示す微分方程式であります。

以上のAとBを使うと、こんな式が書き表せます。$${E}$$ の頭上にある横棒は $${E}$$ の平均値を表しているよ。


$${\bar{E} = -\frac{A}{B} \rho}$$


こうも書けますね。


$${\langle E + \Delta_1 E + \Delta_2 E \rangle = \bar{E}}$$


とんがり括弧や頭上にバーが使われるのは、統計力学の血が混じっているからです。電磁気学って根っこに統計力学があるし、アルくんはもともとその筋の出身でした。

ここまで話が進んだところで、アルベルトの兄ぃは振動子という呼び名を「分子」に切り替えてきます。

そして気体分子運動論のアナロジーで、議論を進めていくのです。

こんな数式がいきなり論文に現れます。


$${W_n = p_n e^{-\frac{\epsilon_n}{kT}}}$$


状態 $${Zn}$$ にある分子の相対数として $${W_n}$$ を表している式です。導出の仕方をアルは省いていますが、ボルツマン分布を使った正当なものです。

ここで彼は、面白い仮定を置きます。

状態 $${Zn}$$ から $${Zm}$$ に移るとき $${ν_{nm}}$$ という周波数の電磁波を吸収するし、反対にこの周波数の電磁波を放出するとき状態 $${Zm}$$ から 状態 $${Zn}$$ に移る、と。

ボーアの原子模型論におけるエネルギー準位の考え方を強く意識してますねこれ。$${ε_m-ε_n}$$。

それからアルくん「これらの基本的な過程に関して、熱平衡において統計的平衡が存在しなければならない」と述べています。統計的とあることからわかるように、原子がパチンコ玉じゃらじゃらじゃらのイメージで彼の脳内でイメージされているのがうかがえます。じゃらじゃら。

後に確立されることになる量子力学が、一個の原子内部での確率を語るのに対し、この頃の彼はじゃらじゃらと存在する原子の群れを語っているのです統計論として。

「熱平衡の状態において、放射を吸収して状態 $${Z_n}$$ から状態 $${Z_m}$$ に遷移する分子の数は、放射を放出して状態 $${Z_m}$$ から状態$${Z_n}$$ に戻る分子の数と等しくなる」と念押ししていることからも、そのことがうかがえます。

この具体的なイメージを元に、俺ぁ行けるところまで行ったるわな洞察が、この後炸裂します。


つづく!


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