ラストエンペラーの祝典と「展覧会の絵」
Abstract: The soundtrack of the movie "The Last Emperor" is a treasure trove of masterpieces. Some pieces were composed specifically for certain scenes and were not used elsewhere. One such piece was played during the coronation party of the protagonist, Aisin-Gioro Puyi. I speculate that the beginning of Mussorgsky's "Pictures at an Exhibition" was in the composer's mind when he composed this particular piece. This essay serves as a preliminary analysis and verification of that hypothesis.
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いきなりですがこの曲は、どなたも耳にしたことがあると思います。
客席よりステージ上の楽団員のほうが多いんじゃないかって野暮なツッコミは禁止します。ラヴェルの「展覧会の絵」です。ええ編曲がラヴェルで、作曲はムソルグスキーです。もともとはピアノ曲で、オーケストラ演奏用にオーケストレーションしたのですよねはいはい存じてます。楽器編成が違う?気にしない気にしない。
この有名曲の出だしは超有名な出だしです。
今日、図書館で音楽の書物をぱらぱらとめくっていたら、この曲のこの部分を分析している章がありました。旋律が五音音階でどうのこうのと、そういう内容です。はっきりいえば凡庸な語りです。
私なら「ラ↘ソ」が頭と締めに出て、韻を踏むようにできていることを最初に指摘して…
次に、この旋律が「3:2:3:3」の拍で構成されていることを強調すると思います。(マーチのつもりで皆さんも口ずさんでみてください)
また、ここも韻を踏んでることを指摘しつつ…
こんな風に「2」に「2」が続いてマーチの「いっちに、いっちに」リズムを作った直後に「+1」を仕掛けてきて…
「3」のリズムに戻してくる。
口ずさんでみてください。
♪ ラ、ソ、ド、レソミ、レソミードー、レ、ラ、ソ
「2:2+1」のリズムの仕掛けによって、この二小節全体では11拍(奇数!)でありながらマーチ(偶数)のリズムが保たれています。
面白い仕掛けですね![追記 さらにもっと凝った仕掛けがあります詳細は後日]
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以上は長い前振りです。本題はこちら。
前に取り上げて分析したことがある気がするのですがブログを探しても分析記事が見当たりません。Twitter のほうで分析して Togetter 化したのかな? それはいいとして、皆さん聴いてみていかがでしょう。「展覧会の絵」のイントロの匂い、濃厚なのが分かると思います。
この映画の劇中曲です。かつて中国東北部「満州」に、清朝の廃帝を呼び寄せて、中国大陸での軍閥争いがこれ以上満州に入ってこないようにするための砦として、満州国という新国家を現地の日本陸軍が宣言し、最終的に東京の天皇も追認するという事件がありました。日本の中国侵略として今も語られています。そんな素朴な史観で語っていいものだったのかどうかについて語りだすと大変なので今はスルーするとして、映画の中では初代皇帝の戴冠式の後、パーティ会場でこの曲が生演奏されていました。史実ではなく映画撮影用に作られた曲です。
作曲者が映画完成後のインタビューのなかで語るには「ファシズム期の匂いがして、絢爛豪華な祝典用の曲で、チャイナの香りがするオーケストラ曲を、とベルトルッチ監督から撮影中に唐突に要請されたのでおんぼろピアノに耐えながら二日で作った」(私のうろ覚えと彼の複数の発言に基づくゆるーい要約)曲です。
「展覧会の絵」のイントロが作曲者の音楽脳のなかで鳴っていたのはまず間違いないと考えます。彼がどこをどうパク…参照しながらこの「満州国パーティ」と後に命名されることになる曲を作っていったのか、それは後の機会に分析して語っていきましょう眠いので本日はココマデ。