見出し画像

数学史が前から物足りなくて

理論物理、というか数理物理は、20世紀数学の恐るべき発展と多様化の申し子です。

私にも夢見る頃がありました。

理論物理学者に憧れたりして。

今となっては old flame ですが、この火は消えてはおりません。

数理物理、いえ、現代数学の礎となっているいろいろな概念が、どういう風に名付けられていったのか、これまでいろいろな文献に当たってみたのですが、どうもはっきりしないのです。

例えば「行列」。高校数学から一時期消えてしまって、今また戻ってきたようですが、あれが形になったのは19世紀半ばです。いえもっと前からあることはあったのだけど「行列」と名付けられたのは19世紀半ば、シルヴェスターの1850年論文が最初です。以下はその翌年に彼が出した論文の一部。

I have in previous papers defined a "Matrix" as a rectangular array of terms, out of which different systems of determinants may be engendered as from the womb of a common parent.
(私はこれまでいくつかの論文のなかで「行列(matrix)」をこう定義しています。各項目を正方形状に並べたもので、それを母胎(matrix)にして異なる行列式がいろいろ生みだされる存在であると)

このことはウィキペディアですぐに確認できて、原論文にもあたって裏を取ることができたのですが、「固有値」とか「固有ベクトル」とか「固有関数」とか「作用素」とかの用語は、誰が最初に使い出したのかを突き止めるのはそう簡単ではありません。

実は過去にそういうのを調べてみたのですけど、はっきりしませんでした。

それでも昨日 chatGPT をいろいろ問い詰めていくことで、きっとこのあたりが正解だろうというものが浮かび上がってきました。

アーサー・ケーリー(Arthur Cayley: 1821‐1895)のようですね。「固有ベクトル」の名称が、1884年の彼の著作に "Eigen-vector" が確認できるという回答でした。1867年刊行のものの再版だとか。この67年版にもこんな記述があるそうです。

"I have called this property of matrices their Eigen (peculiar) character or value, and for brevity will often speak of an eigenvalue and eigenvector of a matrix, instead of saying that they are respectively a characteristic value and characteristic vector of a matrix of the first degree."

chatGPT によると『The Theory of Linear Transformations』(線型写像の理論)という書物の第1巻第3章の冒頭にあるとか。

うーんこのAIは質問を重ねれば重ねるほど、つじつまの合わない回答をし出すので、これ以上は聞き出せませんでした。ちなみに後で再質問したら、1858年の "On the theory of matrices" にあると回答されました。しかしその論文にあたっても上の文が見つからないのです。

私が検索で見つけたこれによると、ヒルベルトが1904年に使ったのが最初とありました。

想像ですが上の英文は、ヒルベルトの論文の英訳の可能性大です。

それからウィキペディアに固有値に関するこんな通史がありました。英語版です。

At the start of the 20th century, David Hilbert studied the eigenvalues of integral operators by viewing the operators as infinite matrices.[16] He was the first to use the German word eigen, which means "own",[6] to denote eigenvalues and eigenvectors in 1904,[c] though he may have been following a related usage by Hermann von Helmholtz. For some time, the standard term in English was "proper value", but the more distinctive term "eigenvalue" is the standard today.[17]

(以下はAI訳を元にしています:20世紀初頭、デイヴィッド・ヒルベルトは、作用素を無限行列と見なして積分演算子の固有値を研究しました[16]。彼は、固有値と固有ベクトルを示すドイツ語の単語 "eigen"(「固有の」という意味)を、1904年に初めて使用した最初の人物でした[c]が、彼はヘルマン・フォン・ヘルムホルツによる関連する用法に従っていた可能性があります。英語での標準用語はしばらくの間「proper value」でしたが、より特徴的な用語である「eigenvalue」が現在は標準です[17]。)

いろいろ調べて確認を取らないようですね。しかし、うまく使いこなせば、そして裏取りを欠かさなければ、このAIを使って、今までありそうでなかった数学史研究ができる気が、ここ数日しています。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?