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湯気の先で|#10

神社での不思議な邂逅を終え、家路につく。

いつの間にか、すっかり夕方になってしまった。
「帰ったらゲームするんだ!!」と意気込む弟。早く帰って、母の手伝いをしなくては。

気温は下がり、頬をひんやりとした風が撫でていった。


薄暗くなり始める街に、商店街の明かりが眩しく映る。
急ぎ足ながらも、その商店街の角にあるたいやき屋さんを目指した。

いかにも老舗のたいやき屋さんという風貌のその店は、母に連れられてよく来た場所だ。
むっと熱気を感じる鉄板に挟まれたたいやきが、パカッと開けられた鉄板から姿を表す姿は、何時間でも見ていられそうだ。


ふと、たいやき屋さんの前に、見覚えのある姿が見える。
あれ、さっきの美術館の案内係の人だ。

凛としていて、でもどこか儚い姿は、どこか人の心を抑えるものがある。
近寄って声をかけると、驚いた表情の後に、すぐにあの暖かい眼差しをわたしに向けた。


「あら、こんなところでお会いするとは……なんだか、少し恥ずかしいですね」


そういうと、照れくさそうにうつむいた。
確かに、ああいったところで働いていると、こうしてプライベートの姿を見られるのは恥ずかしいかもしれない。


お姉さんのたいやきをせっせと店主の若い女性が焼き上げる。
店には店主しか見当たらない。注文は難しそうなので、お姉さんの分のたいやきが出来上がるのを、ゆっくり待つことにした。


ふと、思いついたかのように、案内係のお姉さんはわたしにこう尋ねる。


「おねえさんは、あんことクリーム、どっちがお好きですか?」


うむむ。そう聞かれると悩んでしまう。
隣の弟は、自分に聞かれていないのに「おれはクリームが好きーーー!!」と答えていた。
その姿を見て、お姉さんは「そっかぁ……!」と弟に微笑む。


はんことぶんこで食べるからなぁ。
母とわたしは欲張りなので、いつもはんぶんこをして食べる。
どっちの味も好きなので、シェアしているのだ。

父も弟も、自分のものは絶対に人にはあげようとはせず、味も弟はクリーム、父はあんこというこだわりが断固としてある。


しばし悩んだ後、「どっちも、ですね」と答えると、案内係のお姉さんはくすくすと笑った。


「そうですよね!わたしも両方好きです!」


ほかほかと心が暖かくなるような笑顔に、さっきまでの寒かった頬や気持ちも、じんわりとほぐれていくようだった。

店主が受付係のお姉さんに声をかけ、たいやきを渡す。
それを受け取ると、くるりとわたしたちの方に向き直り、「また美術館に遊びに来てくださいね」とだけ告げて、その場を去っていった。


わたしたちもたいやきを買い、家に向かう。
紙袋には、あんこがふたつ、クリームがふたつ、綺麗に並んでいた。


母と弟と、そして久しぶりに定時に上がるという父の分。
また4人で、食卓を囲む日々が戻ってくる。

母と本と作ったことを話そうか。
それとも、これまでの不思議な出会いを話そうか。


紙袋からほくほくと上がる湯気を見つめながら、家路を急ぐ。
空には、眩しいほどにきらめく一番星が、空高くでわたしたちを見守っていた。

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