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意思を継ぐもの
老人は静かに、暖炉の火を見つめる。
普段子どもたちに向けている優しいまなざしとは違い、その目は鋭く、暖炉の炎の奥にある"なにか"を見つめている。
深刻なサンタクロース不足。
前々から言われていたが、サンタクロースの志願者は年々減少傾向にある。
それもそうだろう。サンタクロースは慈善事業だ。
給料はもってのほか。
そして、過酷な採用試験や移動の際の制限など細かいルールが多く、挫折する人も少なくないと聞く。
かくいう、私もそうだった。
子どもの頃に夢を届けてくれたサンタクロースにあこがれて、グリーンランド国際サンタクロース協会の門を叩いた。
しかし、夢であったサンタクロースは、ギリギリのところで子どもたちに笑顔を届けていたのだ。
サンタクロースになるためには、過酷な試験を通過する必要がある。
まずは、結婚していて子どもがいること。
次に、サンタクロースとして活動したことがあること。
サンタクロースにふさわしい体型になるよう、増量をおこなった。
そして、その重たくなった身体を引きずり、プレゼントの入った袋を持ったまま50m走をおこない、そこから約3mの煙突をはしごで登る。
ウエストギリギリの煙突の中に入り、暖炉から這い出て、子どもたちが用意しているクッキー6枚と牛乳を完食し、スタート地点に戻る。
一瞬、なんのアスリートかと思ったが、サンタクロースはアスリートだ。
なんとしてでも25日の朝までに、子どもたちへプレゼントを送らなければいけないからだ。当たり前のことだろう。
そうして必死に試験を受けたあと、採用面接がある。
英語での面接。そして身だしなみチェック。
ここで合格したと安心するにはまだ早い。
合格後、サンタクロースの認定を受けた新米サンタクロースは、古株サンタクロースの前で宣誓書を読み上げなければならない。
しかも、「HOHOHO」というサンタクロース語で、古株サンタクロースのOKが出るまでだ。なんの罰ゲームかと思った。
こうして、サンタクロースになったわけだが、ここまでの経緯を踏まえてサンタクロースになろうと思う人はごくわずかだろう。
サンタクロースになってからというものの、普段の生活はガラリと変わった。
普段はサンタクロースという身分を伏せて、各々仕事をおこなう。
そして、クリスマスのプレゼントへの資金をコツコツ貯めていく。
決して、裕福な暮らしではなかった。
もちろん、妻や子どもを養っていく必要もある。
遠いどこかの子どもたちだけのために、稼げば良いという話でもない。
そして、行動面での制限もある。
子どもたちの夢を壊さないためにも、サンタ活動中は服を途中で着替えることは許されない。
つまり、会合などで集まるときは、サンタ服を着用して飛行機に搭乗する必要があるわけだ。
同乗者にジロジロ見られて、毎年恥ずかしい思いをしている。
そんなわけで、年々サンタクロース不足が叫ばれている。
長老のサンタクロースは、もう長くないだろう。
クリスマス前におこなわれた最後の会合では、長老の姿は昨年よりも小さく見えた。
その裏で、長老の跡継ぎを検討する会も開かれた。
しかし、蔓延している疫病の影響からか、自ら跡継ぎを名乗り上げるサンタクロースはいなかった。
少しでも不幸な子どもが少なくなるように。
今ではその意志を引き継ぐものは数少ない。
故に、今後更にサンタクロース不足が浮き彫りになっていくだろう。
となると、だ。
やはり重い腰を上げるべきだろうか。
そうしたところで、私の跡継ぎが出てくるとは限らないが。
ならば、サンタクロースの真意を皆に伝えるべきだろう。
慈愛の心を持った、清い人物を探す必要があるようだ。
暖炉の火は、とうに消えかかっていた。
静かに寝息を立てる彼の膝下に、妻は優しく毛布を掛けた。
サンタクロース-Wikipedia
(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B5%E3%83%B3%E3%82%BF%E3%82%AF%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%82%B9)
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清世さんのクリスマステロに参加しています。
サンタさんの苦悩の話。頭の中のひとりごとです。
公認サンタになるのって、意外と大変なんだな〜と個人的に勉強になりました。
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