2024年2月に読んでよかった本「ウェブ社会の思想」(とその周辺)

ウェブ社会の思想 鈴木謙介

とその周辺

私はこの本を2024年に読んだわけだが、主に二つの理由で問題意識の先駆性に驚いた。

まず「宿命」という言葉について。筆者は以下の意味で使う。
『いまあるものとは別の未来さえ求めさえしなければ、わたしが選んだこれだって、そこそこ幸せだったじゃないか。──そのように思わせる根拠付けのことを、私はここで「宿命」と呼んでいる。』

最近読んだ本でも、さまざまな論者が同じような概念を異なる言葉で表現しているが、インターネットの普及を背景として若者のコミュニケーションの背後に「宿命」が張り付いていることを2007年時点で明確に指摘しているのは、私の狭量な認識では筆者だけである。
これはおそらく世代的なものと(1976年生)フィールドワークに基礎を置く社会学的手法によると思われる。

二つ目は、「私的な共同性を公共性へ繋げる」ための可能性として、時間・持続の概念を見出していることだ。
恣意的に選べないものを媒介としてしか人は関係できないのではないかと述べており、それが時間だと言うのである。
同書ではその内実については書かれておらず、端的に「時間だと考えている」というアイデアにとどまっているが、それでも2007年時点でこの認識を提出しているのはとても先駆的であると思う。
というのは、私が最近読んだ社会学的・哲学的な本における、インターネットが全面化したこの時代に人々はいかに連帯するかというテーマへのめいめいの回答に共通していたのが「恣意的に選べないもの」だったからである。

近年は著書という形での大学外に向けての発信はあまりないようである。
思想の核となる部分はこの時期にほぼ完成を見ており、以降は言説ではなく教育の場での実践に重心を置くようになったということだろうか。
それとも理論は端的に生活の糧を得るための道具であり、大学教員というポストを得てその共同性の外にコミットメントする必要がなくなったということだろうか(失礼)。


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