【論文】英小説「ハリーポッター」の翻訳から見る日韓のキャラクター表現の違い
1.比較対象を少し変えてみて
同じ小説を読んでいるはずなのに、翻訳を通すだけで言語ごとに違った印象を受けることがありますよね。
日本語に翻訳されたセリフの場合、より女性っぽい口調が原作の表現意図からズレてしまわないか?が議論に上がることが多いです。
今回は、韓国語の原文と比較して発見された日本語翻訳の特徴が、英語の韓国語翻訳文と比べても同じことがいえるのかを調査した論文を紹介します。
共有する論文:佐々紘子「翻訳に現れる役割語に関する考察 -『ハリー·ポッターと賢者の石』の 英日·英韓の翻訳文を研究対象に」
2.役割語と翻訳調
この研究は、英語を原文として翻訳された日本語文と韓国語文を比較・対照することによってそれぞれに現れる役割語の使われ方の違いについて考察しました。
論文では主に以下の2点が考察されています。
英韓翻訳、英日翻訳の翻訳でも日韓翻訳や韓日翻訳を比較対照した先行研究結果のように、日本語が韓国語より役割語が多く現れるのか
もし、日本語の方が役割語が多かった場合、韓国語では役割語以外にどのような装置があるのか
研究資料に選定されたのは、『Harry Potter and Sorcerer's Stone』の日本語版『ハリー・ポッターと賢者の石』と韓国語版『해리포터와 마법사의 돌』の第1章の会話文で見られた役割語です。
英語版を基準に、文章ごとに区切った結果168文が集められました。
その中から役割語が現れた文は、日本語版で71文、韓国語版で38文でした。
この調査結果から以下のことが分かりました。
論文の筆者は、今回の研究をより深いものにするために他の翻訳作品における役割語や翻訳調の比較対象分析を今後の課題としました。
3.不自然な翻訳をどう捉えるか
日本語翻訳の役割語については他の論文の指摘と同様の結果になりました。
一方で、韓国語ではネイティブが使わない英語っぽい表現が、作品の世界観を表現しているという考察になりました。
翻訳するときに気をつけるポイントとして、原文の意味から飛躍した文章を作らないことと、翻訳であることを読者に感じさせない自然な文章を作ることが挙げられます。
この点において、英語っぽいと韓国語読者に感じさせる翻訳調は、あまり肯定的に評価するのは難しいでしょう。
しかし、読者がすでに作品の舞台が韓国でないイギリスであることを理解しているため、英語っぽい表現がむしろ作品の世界観を伝えるのに成功していると評価できます。
では、日本語の役割語の場合はどうでしょうか。
翻訳調と同様に、役割語もあまり現実的でない表現ではあるものの、作品の世界観を作り出し、読者の没入感を高める役割を果たします。
反面、女性性が誇張されるなどの違和感は、日本語翻訳者や読者の間にイギリス小説のキャラクター像と日本語の役割語が表現する人物像が合わないことが共有されている結果ではないでしょうか。
従来の役割語とは別の演出によって、キャラクター像を読者に伝える工夫を考えるタイミングが来ているのだと思います。
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論文
佐々紘子「翻訳に現れる役割語に関する考察 -『ハリー·ポッターと賢者の石』の 英日·英韓の翻訳文を研究対象に」『일어일문학연구』vol.100, no.1、韓国日語日文学会、2017年、pp. 67-83