まったり猫さん
今回読ませて頂いた作品
本文テキスト
読解
ひらかれた字が、浮き雲のように柔和な質感を伝えてくる。随所に見えるダブルミーニングとしても活用されている仮名遣いが、枝分かれしつつも縒りあわされていく。
綿毛のような、吹けばふわりとどこまでも風に乗って飛んでいきそうな空中や胸中に漂うもの。実態のない霊的なものや、陽だまりに泳ぐ塵埃。ひっそりとした孤愁に浮揚し思い出させる記憶が感じ取れる。
ふわりと浮かんだ気持ち。花が咲き染める春の風。擬音が奏でる麗らかな日常のワンシーンに「あなた」が挿入されていく。
はくり(口に運び・剥離されて)
口にする(咀嚼・嚥下・口から発せられる独語)
綿菓子のように摘み取られた桜色した香雲から
追憶の甘い香りを探している。
ほわほわは「あなた」を偲ぶ内観。つまり此岸(こちら)で、ふよふよは浮遊する空蝉(うつしみ) 。つまりは春彼岸(あちら)から届いた隠し文だろうか。
ほふりとは、乾いた洗濯物を取り込むときに上がる毛羽立ち。隠れていたように春の陽光を浴びて香り立つ身の回りのもの。イメージとしては、自分のものでは無い寝具や衣服が放つ残香。
それはあなた▷空中にほわり漂う記憶
そらにゆるり▷空・宙にふより漂う不帰の客
たゆたうあなた▷どれだけ変容しようと、どれだけ時が経ようとも変わることのない深い愛がある。
朝、昼、夜、視界に溶け込み語り手の窓辺まで届いたさまざまな便り。粉塵や綿毛のような、身のまわりで光を浴びてただようもの。
ふわり風に舞う桜の花びらのように香り立ち、
隠れていた記憶の欠片が想起されていく。
世界との相互作用により「あなた」であった微粒子たちが地上付近を別の形であっちへ行ったりこっちへ行ったりしている様が浮かびます。漆黒の未開地を超えた「生と死の境界点」の先で、そらに散りばめられた星や、埃、可視化できない「みえない手」となって寄り添っている。
びろうどのうこんとは、絵巻に見られる仏様が雲に乗ってやってくる、もしくは一緒に浄土へ連れて行ってくれる聖衆来迎のモチーフで、夕焼けや朝焼けなどで美しく金色に映える彩雲でもある気がします。
この作品では、雲にさまざまな意味が込められている。時の流れ。薄い藍色に染まる朝の空に浮かぶ瑞兆。月光が夜に抱かれた雲の輪郭を描いている。そこには見上げるものと、見守るものがいる。
ふわりと優しく漂っているのですね。
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