春の都③
これはご褒美であると
夕食、夕飯、晩飯、ディナー、
呼び方はいろいろあれど
夜のメインの食事に違いない。
我々取材班は昼のメイン行事を終え
様々なことを振り返りながら
夕食会場へと向かった。
普段マガジンでまとめているような
サラリーマンの昼ご飯ではなく
今日はどうやら様子が違うようだ。
―時刻は19:30
とあるホテルのエントランスについた。
我々が宿泊している旅籠とはエライ違いだ。
きらびやかで、大きく、空間が広い。
利用者は幅広く老若男女多国籍。
装飾類はシックで控えめながらも
荘厳さと豪華さを兼ね備えている。
入口のチェックを受けて予約を確認したら
ご丁寧に席まで案内を受けた。
なぜ、こんなところに来てしまったのか?
いつもツーマンセルでミッションを
こなしていたが、今日は珍しく
3人パーティーを組んでいる。
「だからここに決めたの」と妻は言う。
聞けば長女に対するご褒美ということだった。
詳細は割愛するが、
長女にもいろいろと苦労を掛けたのだ。
親は子に感謝と労いを
子は親に感謝と理解を
お互いがお互いを尊重する
仲睦まじい親子の会食。
なんと微笑ましいことであろうか。
そこには確かにディナーを囲む
あたたかな家庭の光景があった。
しかし、それは瞬く間に崩れ去る。
気が付けば二人は席を立ち
テーブルに独り残されてしまった。
なぜなのか。
私は先ほどまでホテルに案内されたと
思い込んでいたが、実のところそうではなくて
ショッピングセンターのフードコートに
転送されたのだろうか。
あれかな回転ドアだな、きっと
転送罠だったのかな?まいったね。
まぁよい。
これくらいでうろたえるほど
低レベルの冒険者ではないので
平静を装い、席に深く座りなおした。
なに座ってんの?
私のような善良な小市民に向かって
矢のごとく投げつけられた遠慮のない
言葉は他の誰からでもなく、愛すべき
パートナーからのものだった。
恐る恐る顔を上げると
そこには、戦利品を持ち帰った妻の姿。
あぁ、なんということだ
手にした皿からは恐ろしい
モンスターの脚が見える。
とどめを刺すのに使った武器だろうか
鋏のような銀色に輝くアイテムもあった。
我がパートナーながら恐ろしい奴だ
あのモンスターは食べるとステータス異常を
引き起こすというのに、奴は無敵か??
私は蟹アレルギー
そうここはホテルバイキング。
どうやらyoutubeで色々見た挙句
絶対にここに来ようと決めていたらしい。
普段は私のアレルギーのせいで
食卓に上がることのない蟹も
バイキングなら自由だろうと踏んだのだ。
蟹海老烏賊帆立牡蠣ムール貝などなど
私がステータス異常を起こすものも多かったが
それ以外の野菜も豊富で助かった。
写真に収めなかったものも含めて
美味しくいただきました。
写真の撮り方が悪いので、あまり美味しそうに見えないが
ホテルの名誉のため美味しかったと書き残しておく。
パートナーが楽しみにしていた
蟹と呼ばれるモンスターは
その脚を2、3本食べただけだった。
無理もない。
何故なら我々の地元(旅立ちの村)は
海の幸、米、酒、で有名な某エリア
料理ならば都も美味しかろうが
素材だけの味ならば、地元が勝るのだろう。
それでも気にせず切り替えて
楽しそうにデザートをほおばる
君の横顔はとても満足気だった。
私はすでに満腹だったので
ただニコニコとその様子を眺めていたのだった。