「普通の人間に擬態していた」アラフォー男性が「アセクシャル??」を自認するまで|case.3 前編
その旅人はスーツケースを引きながら、取材場所に現れた。これまで20カ国以上に渡航経験があるShigonさん。「アロマンティック」「アセクシャル」という単語に出会い、クエスチョン(=?)の付いた自認に至るまでの話を聞いた。(記事は後編もあります。後編はこちら)
Q1 どんな子どもでしたか?
――将来の夢はサラリーマン、いわゆる普通を目指していたそうですね?
自分が楽だと思ってそう言ってましたね。
――「普通」にならなきゃというのは家族から言われたりしたんですか?
何も言われてないですね。自分の両親は放任主義で、兄弟もいるんですけど、各々好きなことをしている家族なんです。それぞれの予定で動いていて、別々の旅行でたまたま同じ日、同じ空港に行くのにバラバラで行くような関係性で。今にして思えば放任というより見守っていたのかなという感覚でいます。
――それなのに自ら普通を目指していた、というのはなぜなでしょうか?
昔だけじゃなく今も、普通でありたいという思いは強いかもです。地元では小学4年生ぐらいから周りで「誰と付き合う」みたいな話が出ていました。でも自分にそういう感覚がないのは漠然と分かっていて。そうして違和感は抱きつつも、それで悩むことはなかったですね。その頃から、みんながやっているように自分もならないといけない、っていう「Have to」で、どうやったらそうなれるだろうという視点で人間観察をするようになりました。
――人間観察?
例えばですけど、「誰かを好き」って言葉で発することはすごい簡単なんですけど、本当の「好き」って仕草とかに出ちゃうと思うんですよ。例えば、目で追うとかちょっかいを出すとか。そういったのを見て、「普通の人間」に擬態できるよう、試行錯誤しながら学んでいました。
Q2 Aro/Aceに出会うまで感じた生きづらさはありますか?
――周囲の流れに合わせて、付き合ったこともあったそうですね。
高校生の時に、周りが付き合ったりしているし、同級生と付き合うことになりました。実際付き合ってみて、難しいなと。先ほど言ったように小学4年で付き合うとかって話が出てくるエリアで結構みんなませていて、高校生になると周りで「ヤるヤらない」みたいな話になって、彼女からも性的接触の話をされていたんです。それを聞き流していて……。
それだけじゃないですけど、多分接し方とか、あとは言葉のかけ方だったりとかもあったんだと思います。この経験を経て、「意外と自分はあまり相手のことって見ていないけど、自分は見られているんだ」と思ったんです。その彼女があわなかっただけで、他の人であれば違った進展があったかもしれませんけど、(付き合うのは)感覚的に無理なんだなと思いました。
Q3 アセクシャル、アロマンティックにはどのように出会ったんですか?
――その後、高校を卒業された後は?
卒業から半年の間はパチンコ屋でバイトをしてお金を貯めてから、ワーキングホリデーでニュージーランドに行ってました。帰国後は半年間ニートをしており、その後、大阪市内の専門学校に通いつつバイトをしていて、そのバイト先にそのまま就職しました。東京や千葉でも働いていたり転職などもして、今は大阪にいます。
――職場の飲み会ではいろんなことを言われたそうですね?
東京で働いていた会社が古い考えの会社だったので、「彼女何年いないんだ?」「結婚しないのはなぜ?」「同性愛なんじゃないか」「なにか問題あるんじゃないか」っていうことを言われて、まあ、よくあるやつですよね。
――そうやって社会人経験を積みながら、アセクシャル/アロマンティックという単語に出会ったのはいつになるんでしょうか?
30歳を超えてからで、あいまいなのですが、誰かに聞いた感覚もあって、ただ最終的には自分で検索したのかなと思ってます。当時、ゲイの人と知り合って、仲良くなるとかっていうことはなかったんですけど、そういう人がいるんだっていうことに改めて気付かされて。考えてみると、自分もマジョリティー側にはいないと漠然と思っていたので、実際にゲイの人とお会いして、衝撃というか、視野が広がる感覚がありました。
Q4 Aro/Aceに出会ってからどのような変化がありましたか?
――単語に出会ってすぐXでアカウントを開設されたんですか?
すぐSNSを始めたわけではなくて。周りで遊んでいた友達が結婚とかして子供ができて、単純に一緒に遊ぶ友達がいなくなったというのが大きかったです。結婚するとタイミングや金銭感覚、そしてテンションも合わなくなって、「自分からは誘わないでおこう」と思い始めて。そもそも、どうやって友達って作るんだっけ? 知り合いのゲイの方から「セクシャルマイノリティーはTwitterとかのSNSで繋がるんだよ」って言われたのを思い出して、SNSという手があるなって思って、アカウントを作り始めました。それで始めたら、本当にこんなにいるんだと。
――2021年にアカウントを開設して、当初は友情結婚を目指していたような投稿が目立ちます。
一番最初は友情結婚をしようと思ってました。それこそパートナー観とかに繋がるかもしれないですけど。自分にとって、誰かと一緒に暮らすことや結婚することがまだいわゆる「普通」だったので。
――ちなみに、ご両親は?
物心がついた時には、母親が基本的に働いてて、父親は働いてなかったんです。父はボランティアしたり、好きなことをしていて、母親の稼ぎで家族を養っていて、それが当たり前でした。
今は、女性の社会進出がどんどん進んで、仕事が好きで仕事をずっと続けたいという女性も増えている。同じ界隈で仕事が好きな人で結婚からのプレッシャーから逃れたい人がいたら、お互いにメリットがあるのかなと思って、SNS開設当初は契約結婚に近い形をイメージしていました。
――今も変わらずですか?
今は別に結婚がすべてではないという考えですね。もちろんパートナーや家族がいたら、楽しいだろうなと思います。なぜかというと、自分は食べることが好きで、旅行も好き。そういった出来事を共有したいんですよ。
例えば3つのメニューを食べたい時に一人じゃ無理なんですよね。私、カツ丼食べます。あなたはハヤシライス頼むんですね。悩んでいたカレーもせっかくなら頼もう……と一人だとそれはできない。できても残すことになるじゃないですか。あと単純に安い。旅行も安くなる方が良いし、基本的に「シェアハピ」な感覚は持ってます。「#ぐるめ倶楽部」の活動も根底にはそんな思いがあります。
Q5 ラベリングについてどう感じていますか?
――「#ぐるめ倶楽部」は「あるある」や悩み、苦しさを共有することが多いオフ会とも違う活動で、面白そうですね。Shigonさんにとって「ラベリング」ってどういう存在なんでしょうか?
ラベリングがあって楽な人もいるだろうし、もちろん自分も多分それって楽になるんだろうなとは思ったんですよ。1回そういうラベリングにぴったり寄せにいく生き方をしてみてもいいのかなと思ったんですけど、数年前の『恋せぬふたり』のワンシーンでセクシャルマイノリティーの懇親会をやっていた場面(第6話)を見て、少し考えが変わりました。セクシャリティと自分の名前を書いて、自己紹介などをしていたシーンで、登場人物のひとりが「アロマアセク?」と書いていて、なんで「?」かを説明していたんです。その人の言葉がすごいしっくりきて。言葉にがんじがらめになる人もいるし、自分がそういうタイプなので。
――Shigonさんはラベリングがあって楽なタイプと自己分析していましたけど、自認としては「?」なんですね。
仮に道があるとして、そこを歩いて行けばそれが間違っていようが、正しかろうが、道があるってことで安心感を覚える人もいると思うんです。だから、そういった道だったりロールモデル、ラベリングがないと不安に思うこともあるだろうし。
ただ、さっきの『恋せぬふたり』の劇中の言葉を聞いた時に無理して決めなくてもいいんだって、気付かされたんです。なので、自分のプロフィールは「?」にしています。
――「普通の人」というラベリングに寄せたように、「Aro/Ace」というラベリングに寄せるという考え方にはならなかったんですか?
自分の勝手なイメージですけど、SNS上では結構ネガティブな投稿が多い印象で…。なので、寄せていくと「SNS上で愚痴やつらい体験談などを投稿し共感してもらう」というコミュニケーションになっていくのかな……と。それをずっと同じテンションで自分がするというのは無理だなと思って。もともとポジティブの方が好きなんです。だから投稿とかもネガティブなものはあまりないと思います。
<続く→後編へ>
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