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読書ノート 「漂白のアーレント 戦場のヨナス」 戸谷洋志・百木漠

 すばらしく読みごたえのある本。感動的でもあり、哲学的(当たり前)でもあり、詩的でもある。アーレントとハンスの生の変遷は、そのまま壮大な映画にできるだろう。ことにハイデガーとアーレントの交歓の場面やヨナスとの接近の夜、その後の関係などは一級の恋愛映画にもなりうる。一貫して見えてくるのはアーレントの強烈な個性、いかなるときも折れないその強い「思考を志向する」精神に、皆魅了されていく姿。

  • 『人間の条件』において、アーレントは公共的な活動に可能性を見出していた。それに対してヨナスは、世界によって保証されているのではない、もう一つの不死性に可能性を見出そうとする。それが「行為の不死性」という概念である。

  • アーレントにおいて世界の不死性は、世界が人間の生まれる前から存在し、死んだのちも存続する人工物の空間であることによって、担保されていた。これに対して行為の不死性とは、人間の行ったことが、いわば行為そのものが、その行為を行った人間が死んだのちも、この世界に何らかの形で存続し続けることによって担保される性格である。ただしその存続は、技術的な人工物によって保存されているのでもなければ、他者の記憶のうちに保存されているものでもない。そうした、現実に存在するいかなる媒体とも無関係に、行為の痕跡がこの世に残されていく、とヨナスは考えるのである。

  • これは彼の直感でしかなく、というよりむしろ、根拠のない予感のようなものだ。しかし、もしもこの世界で不死性を基礎づけることができるとしたら、そうした仕方以外にはありえない、と彼は考える。そして、死の存在論のニヒリズムに対抗して構想されるべき世界像は、こうした行為の不死性を正当化しうるような物語に他ならない。

 テクノロジーの自己増殖的な進化の果てに、あるかもしれない全体主義。それに対抗するために、その進路を転轍させるために、私たちは、ここにいる者、そしてここにいない者たちに、警告をし、対策をし、対話を継続しなければならない。これ結論。いやあ、これ、買いです。


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sakazuki
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