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【短編小説】 真夏の通り魔 〔前編〕

いったいあれはなんだったのだろう。
私にしか視えていない何か。
人の望みを喰い、見返りを求めない魔法を
かけてくれた命の恩人。


小学6年になった。
私は転勤族のひとり娘として可愛がられながら育てられてきた。
周りの子より良い服、良いバッグをいつも親からプレゼントされるし
月に一回旅行は当たり前で、年の行事ごとの際は絶対綺麗なホテルに泊まってお祝いをする。

そんなのが当たり前だと思って今まで生きてきた。

他の家庭とは違うと気づいてきたのは
今の小学校に転入してきて2年目。
6年生になってからちょっと経った頃のこと。


「かなこちゃんっていつも綺麗な服着てるよね。お金持ちなんだ」
休み時間に友達からかけられた一言に
「そんなことないよ。愛ちゃんも着たいならお母さんとかに言えばいいんじゃん。買ってくれないの?」


そう言った日からクラスのみんなの視線が変わったのを感じた。
私はなにかおかしいことを言ったのか。
親ってみんな同じものじゃないのか。

いじめが一番酷い時、私は本当に自○を考えた。
私が屋上から飛び降りたらクラスの皆んなは後悔してくれるだろうか。
先生は、自分の無力さに泣いてくれるだろうか。


親には言えない。
私のためにまた新しいお家を借りて別の小学校へ手続きをするとなると絶対大変だ。お仕事も忙しそうなのに..。
「これは1人で解決しないといけない問題だ。」と子供ながらに責任感を抱えていた。

そうしてボロボロになりながら、
毎日歯を食いしばって学校に行っていた。


あれが現れたのは、そろそろ気持ちが限界だと自覚してきた
ある日の夕方。

誰も子どもがいなくなった、オレンジ色に染まっている校舎を真後ろに
とぼとぼ校庭を歩いて門まで向かっていた時のこと。


俯きながら門を出て
横断歩道を渡ろうと周りを見渡した時
5メートル程先に、息をしているのか心配になるくらい1ミリも動かない何かがいた。


見た目は大人の男性。
でも、夏なのに足首くらいまである分厚い黒いコートを着ていて、頭には黒い英国スタイルのフェドーラハットを深く深くかぶっており
何でなのか下を向いたままずっと立っていた。


小学6年なので流石にこの人が不審者だということはすぐわかった。

夏にあんな服着るなんておかしい人。
暑がる様子も見られない。

本当に、人なの、、?
それともUFOに乗ってきた宇宙人とか、?


とりあえず家に帰るにはこの横断歩道を渡らなければならない。
車も何も通っていない田舎の一方通行道路を赤信号のまま渡り、
その黒い姿のものをなるべく視野に入れないように通り過ぎようとしていた時。

「あぁ..」右耳に、体が揺れてしまいそうな程の低い声で声をかけられた。
私は声を聞いた瞬間からだをぴたりとも動かせなくなり、
血の気が引いていくのと同時に鳥肌が一気に立ち始めたのを感じた。

「おい..あんた。。
 学校でつらい目にあっているんだろう。
 おじさんに聞かせてごらん。。」


先ほどより柔らかい喋り方で話しかけられているのが分かった。
なんで知っているのか怖くなるより前に
勝手に自分の口が動き出し
今まであってきた酷いいじめを一個一個
何故かあっさりそのおじさんに話してしまった。

静かにうなづくおじさん。
下から見上げても何故か顔が見えない。
目は何とか見えるが瞬きをしていない。
一重なのにすごく目が大きい。

怖くなり私は目線を下に落とした。

「おじさんが何とかしてあげよう。。」
眠くなるくらいゆっくりとした声で最後に一言そう言われたと思えば、
いつの間にか固まっていたからだがすっと動くようになり
その変なおじさんは目の前から消えていた。


まだどこかにいるんじゃないかと必死に周りを見渡すが
全然いない。

最後の戸締りをしていた教頭先生が私を見つけ
「そこで何してるんだー。早く帰りなさーい」と
玄関から叫んできた。

いつからここに立っていたんだろう。
とっても暑くて身体中に汗をかいている。

お母さんから朝貰ったタオルで顔を拭き、
赤白帽をかぶり直してから走って帰った。


言えない。
親には言えない。
怖い。あの時間は一体何だったんだろう。


この日、私は寝るまで今日の放課後の
不審者らしき人のことを思い出していた。

この時の私はまだ、
明日から起こる学校での数々の不可解な出来事で
あんなに苦しい思いをするとは思っていなかった。



続く..。


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