カオナシが依頼者様をイメージしたハーバリウムを作成した話 『深海✕高天』
「へぇ、キレイだね。お金払うから私にも作ってほしい」
「え、あ……あ……アリガトウゴザイマス…」
この時、ちょっと喋れるカオナシのようにしか返せなかった私。
知人に作成したハーバリウムを渡しているのを見た方から、想定外の言葉をもらってフリーズしてしまったのだ。
これは、そんなカオナシのような対応しかできない私が、初めて依頼された時の話だ。
後日、知り合いを通じて正式に依頼をいただき作成させていただくことになった。
今までは、知っている人に感謝を込めてプレゼントしていたので、私の中の「その人」のイメージで作っていたが、今回はほぼ初対面の方!
カオナシみたいな反応しかできなかったけど、お金を払っても欲しいと言ってもらえたこと、実際にそうしてもらえたこと、本当に嬉しかったって気持ちを込めて喜んでもらえるものをつくるぞ!と気合いだけはあった。
好きな色とか花を使うだけじゃなくて、依頼者様の内面をイメージしたような、依頼者様だけのハーバリウムを作りたいと考えた。そうなると、まずは依頼者様のことを知ることからだ。
「依頼者様を知る」、これがカオナシのような返答しかできない私には難関だった。
直接お会いすることが難しかったので、メッセージでのやり取りだったのだが、上手に質問できないのだ。その為、色々な質問をするので何度もやり取りをして、疲弊させてしまったかもしれない。そんな私に、いつも素早くお返事をくださったので、本当に有り難かった。
答えてくれたことを元に、私の中の「依頼者様の物語」をつくった。
大切な人からの小さな光(優しさ)は、小さな蕾。
深く受けとり、開花させて光を強められるのは「あなた」だから。
きっと深く受けとめた先で、新たな蕾が生まれていく。
小さな光(優しさ)を、高く届けていく。
真っ白のまま届けられることも「あなた」の優しさ。
きっと受けとった人が、素敵に色づけて、また繋がっていく。
「優しさ」や「幸せ」を繋げて巡らせていける素敵な方だと感じ、青いニゲラを依頼者様の両手に見立てたりして、それぞれの花にイメージを持たせながら瓶の中に注ぎ込んだ。
深い海のように受けとめることができる部分をイメージした『深海』
空高く送り届けていくことをイメージした『高天』
表と裏で、それぞれ海と空をイメージし、泡のペイントで繋いだ。
イラスト付きの物語と説明文も添え、使用した花々の花言葉を記載したクリアファイルもつくって、それを入れた。
そして、私なりにラッピングをして、いよいよお渡し!
「まずは、こちらをご覧いただきたいんですが……」
商品と一緒に、ファイルから物語と説明文を、いそいそと取り出した。
「わ、すごい文字数……ごめんね、文字読むの……苦手なんだ」
「あ……」
時が止まり、パキっと心のどこかで音がした。
肝心なことを確認していなかった。そう、友達にも文字読むのが苦手な子がいる。苦手な人もいるって知ってたはずなのに、勝手に読んでもらえると思い込んで、ビッシリ文字を書いたものをつくってしまった……!
カオナシが、金の粒を千尋に差し出して断られたシーンが浮かぶ。
その時のカオナシのように、本当の意味で相手のことを分かっていなかったのだ。
カオナシも大暴れしていたけど、同じようなものなのかもしれない。どうされるのが嬉しいのかなんて、人それぞれ違うのに自分の基準だけで考えて良かれと思って暴走してしまったのだ。
依頼者様は「後で読むね」と説明文も商品も全て受けとってくれて、御礼も言ってくれたのだが、ハーバリウムに込めた思いを、その場で即興で全て語ることもできず、最初のカタコトのカオナシに戻り、少しだけ説明をして終わった。
心の中で「あ……あ……」とカオナシのように呟き、崩れ落ちた。
以前、風の歌のナウシカさんに初めてハーバリウムを購入していただけて、様々なことを学ばせていただいたが、今回も学ばせていただくことが多かった。
ちゃんとしたモノを作成して届けたいという気持ちが先行して「つくる」ことに集中しすぎていた。だけど、それ以外の大切なことがたくさんあることを、改めて気づかせてもらった。この経験をさせてもらったことも含めて、依頼者様に感謝をしながら、次に繋げていきたい。そして、滑らかに話せるようになりたいと思うのだった。
現在も、友人や知人につくったモノをInstagramに掲載中。noteにも少しずつ掲載予定( . ˬ .)"